図書館の魔王
一部実体験です。
こうだったら良いのにという妄想を小説にしました。
怖くなかったらごめんなさい。
年齢不明。
性別不明。
住所不明。
国籍不明。
その他全て不明。
昼下がり。
図書館の静寂を破る叫び。
「ママ〜抱っこして。抱っこしてったら」
生意気な顔をした幼児は大声を張り上げて図書館の床を転げ回る。
「うるさいわね!静かにしなさい!」
負けじと怒鳴り散らす派手な服装の母親。
この親子は今日初めてここに来るに違いない。
そうでなければこんなことは出来ないはずだ。
周囲が親子を見る目は怒りでも憎しみでもない。
むしろこの親子のことなど目に入っていない。
彼らの目に映るのは過去の惨劇。
そしてこれからの悲劇。
図書館を乱す親子の上に影が落ちる。
人々は目を伏せ、その場から立ち去る。
床に転がっていた子供が起き上がり振り返る。
そしてその人物の異様な風体に固まる。
無理も無い。
まず目に入るのは汚れひとつ無い真っ白なブーツ。
続いてこれも真っ白な作業用ズボン。
そして上にも白い作業服。
両手には肘まで隠す白い手袋をつけている。
更に視線を上げると純白のマントがなびいているのが見える。
そして一際目に付くのが頭だ。
頭のある部分は丁度頭を隠せるくらいの大きさの材質不明の白い箱になっている。
そしてそこからいくつも飛び出した鏡の破片。
大きいもので10センチくらいある。
子供は呆然と目の前の人物を見ている。
不意に白い人物は子供の胸ぐらをつかみ持ち上げた。
2メートル近くある巨人に掴み上げられた子供の恐怖は計り知れない。
だが、あまりの恐怖の為に泣く事も出来ない。
異様な風貌のせいだけではない。
この人物の放つ恐ろしい程の殺気によって子供は固まっているのだ。
そのまま白い人物は手を背中に回しマントの中から本を取り出した。
『誰でも簡単おいしい肉料理』
「何なんですかあなた!警察呼びますよ」
馬鹿な母親でも意味は分ったらしい。
母親を無視して白い人物は子供をマントの中に入れていく。
子供の体が徐々にマントの中に隠れていく。
子供が入りマントが膨れるはずだが一向にその気配は無い。
マントは平たいまま子供の体が半分ほど入ってしまった。
子供を取り返そうと母親が掴みかかるがみぞおちを蹴られ1メートルほど転がった。
そして子供は完全にマントの中に消えてしまった。
母親が床に倒れたまま泣き声ともうめき声ともつかない声を出している。
白い人物が母親の傍に行き屈んだ。
そして今度はマントの陰から湯気の立つスープを取り出した。
母親の目の前にさっきの料理本が開かれる。
『子羊のトマトスープ』
母親が狂ったように泣き喚く。
白い人物は床に置いた料理本を拾った。
いつの間にか本が変わっていた。
『罪と罰』
母親が怯えたような目をする。
白い人物は母親の髪を掴み自分の顔へ引き寄せた。
飛び出た鏡の破片が数枚軽く母親の顔に刺さる。
そこから流れ落ちた血が白い人物のブーツの上に落ちる。
母親の顔が恐怖に引きつる。
ドチャッ!
館内に響く音。
不思議なことにあの白い人物がいくら暴れても騒ぎが終わると血は一滴も落ちていない。
そして、誰も白い人物の素性を探ろうとはしない。
感想待ってます。