お題小説 茶碗蒸し カビゴン どんぐり拾い
「……失敗した。」
私の目線の先には茶色の茶碗蒸しが机の上に置かれている。
なぜ茶色かと言うと、友人のリクエストでどんぐり入りの茶碗蒸しを作る事になったからだ。
しかしなかなか上手くいかない。
普段ならそんな面倒なこと絶対お断りなのだが、誕生日だから私にできることならなんでもするよ。と言ってしまったので今更断りようがない。
できることならタイムマシンで過去に戻ってその時の私を殴ってやりたい。
そんなことを思っていてもできるわけがないので大人しく作業に戻る。
インターネットでどんぐりの食べ方を調べてみたところ、食べれるようにするまで結構な手間がかかるようだ。
まず採ってきたどんぐりを水につけて放置する。
その水を毎日取り換える。
水につけていると虫が出てくるとかなんとか。
私だったら虫が入っていた木の実を料理に使って食べようとは絶対思わないけど、友人がやれと言うなら仕方ない。
次に水につけたどんぐりを日向に当てて乾燥させる。
後はまた流水にどんぐりをさらしてしばらく放置。
これで準備は完了。
「どんぐりが体にいいっていうのはわかるけどさ……なんでわざわざ茶碗蒸しなんて面倒なものに入れるように頼んでくるのよあのバカ。」
私に茶碗蒸しを作るようにリクエストした友人の顔を思い浮かべながら今日何度目かわからない作業をこなす。
そもそもなぜ友人は私にどんぐり入りの茶碗蒸しを作るように言ったのかが謎である。
普段から健康に気を遣っているわけでもないのに、全く理解できない。
「どんぐり拾いって結構体力使うのよね……」
おかげでいい運動になった。とかは思ってない。
全く無駄な時間を過ごした。
どんぐり拾いに出た先の山で蚊に刺されるわ、蜘蛛の糸が髪につくわ、おまけになんかポケモンのカビゴンみたいなやつも見ちゃったし。
「できた……っと」
本日5個目のどんぐり入り茶碗蒸しの完成だ。
今度は先ほどとは違い、色は普通の茶碗蒸しと同じ白色だ。
「今度はちゃんとアク抜きしたから大丈夫な筈……」
恐る恐る自分の作った茶碗蒸しを食べてみる。
一言感想を言うなら。いや、食べた感想が一つしかない。
普通に作る茶碗蒸しと変わらない。
そもそもどんぐり自体があんまり美味しくないから茶碗蒸しに入れても美味しくなるわけがない。
「まぁ不味くならなかったからいっかぁ……」
正直私も茶碗蒸しを作るのが飽きてきたのでこれを完成品としててきぱきと片付けを始める。
後はこれを友人に食べさせるだけなのだが……
「がっかりしないかな。」
美味くも不味くもなっていないごく普通の茶碗蒸しを食べたところで友人は何も反応しないだろう。
「まぁでも仕方ないよね。これ以上はないんだから。」
自分に言い訳をしながら携帯電話で友人にメールをうつ。
これで数分もしないうちに友人が家に訪ねてくるだろう。
私は微妙な顔をしながら茶碗蒸しを食べる友人の姿を想像しながら再び片付けを始めた。