探偵部から演劇部
「あー、良かった。誰もいないのかと思いました」
「悪いな、あまり慣れてないもんでな」
「慣れてない?」
「いやっ、なんでもない、気にするな」
ここで初めて依頼者が来たなんて、言ったら帰ってしまうかもしれない、それだけは死守せねば、
「それで、一体何の依頼かな?」
「えっ、依頼!」
「あれ、依頼で来たんじゃないの?」
「はい、この部活に入部したいんですが…」
「何だ、依頼じゃなくて、入部届けかよ」
かなり期待していたため、やけに残念な気持ちになってしまった。
畜生、俺の期待を返せ。
「でもなんで、こんな部活なんかに入ろうと思ったんだ?」
「みなさんの噂は、最近よく聞きますし、今日の活動を見て、入部を決意しました、」
「今日の活動?」
今日の活動なんて、いつもの劇くらいしかしてないぞ?
「理由はよく分からんが、まったく活動なんかしてないぞ」
「何を謙遜してるんですか、毎日真面目にやってるって聞いてますよ」
「本当にこんな探偵部に、そんな噂が流れてるのか?」
「えっ、探偵部!?」
「なんだと思ってたの?」
「ここって、演劇部じゃないんですか?」
本当にここが探偵部じゃなくて、演劇部だと思われてた……、
「探偵部だ!決して演劇部などではない」
「じゃあなんでさっき、どうでもいいことを、まるで事件のように話してたんですか。演劇の練習ためじゃないんですか?」
「そんな訳ねぇだろ!暇だからだよ!悪いか!」
なんか理不尽にキレているような気もするが、そんなことはどうでもいい。
初の依頼者と期待させた挙句、遂にはこの部活を、演劇部と言いやがった。この恨みを晴らす相手はコイツ以外にいる訳が……、
「でも、演劇したいなら、ここに来いって言ったのは、神田君なんですけど……」
「何!」
そして、神田の方を見ると、いきなりドアを開けて、廊下へと駆け出した。
いた、狙うのは神田だ。
「はぁはぁ、さすがに先輩も屋上までは来ないだろうな」
「お疲れー、ファンタ飲むか?」
「あー、ありがとうございます。先輩」
俺は手に持っているファンタを神田に渡す。
「それで、誰から逃げてたんだ?」
「それは、もちろん先ぱ……」
ゴクッと、唾を飲む音が聞こえる。
「先輩、なんでここに……」
「お前は、なんだかんだで結局逃げるとしたら屋上って決まっているからな」
「さすが、探偵部……」
「でっ、遺書は書いたか?」
「えっ、遺書って、冗談ですよね……」
「…………」
「えっ……、本気ですか」
「…………」
短い静寂の時間が流れた。
「おいっ」
「はっ、はい」
「俺達は何部だ?」
「探て……いてててっ」
おもいっきり、つねをひねる。
「そうだ、俺達は探偵部なんだ、決して演劇部なんかじゃないんだ、分かっているな!」
「はいっ」
「今後一切、演劇部とか言うなよ」
「りょ、了解です……」
涙目で答える神田
「じゃあ、まずお前がアイツの誤解を解いて来い」
「えっ、演劇じゃなくてあれはコントだってことをですか?」
とりあえず、一発殴る、
「いたっ、嘘ですよ、すぐに行ってきます」
そういうと、部室に向かって駆け出した。
しかしな、いくら神田が言ったからって、俺達が演劇部に見えるなんて……、
マジで、依頼来ないと見分けがつかなくなるな……