96 告白
ラァトの頭の中で繰り広げられているであろう脳内会議、わかるようなわかりたくないような……。
とりあえず食欲がなくなったので夕飯は片付けて、落ち着いて話せるようにソファに移動した。
ラァトが若干私よりもテンパってるおかげで、少々冷静さが戻った気がする。
「マモリ……」
語尾に"捨てないでくれ"ってセリフが聞こえる気がする、空耳だけど。
一つのソファに、向かい合うように体を半分回して座る。
相手の顔が見えないほうが楽なのかも知れない、だけど、侮蔑されるなら完膚なきまでに叩きのめされたい。
そうしたら、未練も無いだろうし。
「あの、ね」
あぁ、冷静に、冷静にわかりやすく。
心臓の音が邪魔、膝の上で握った指先が冷たい、声が、震えそうだ。
「ラァトにお嫁さんにしてもらって、感謝してます」
今まで良くしてもらった事のお礼を言っておきたくてそう言ったら、ラァトの表情が益々こわばってしまう。
「さ、最初は突然でビックリしたんだけど。 ラァトと結婚して、この世界に家ができて、本当にホッとしたの」
搾取されてボロ雑巾のように路地で転がる未来だってあったはずなのに、幸運なことに結婚して家ができた。
「ラァトは紳士で、私のことを優先してくれるし」
夫婦なんだから夜の営みを迫ることだってできるのに、決して迫ってくることは無かった。
「ラァトみたいに優しい人と結婚できて、凄く幸運だった」
過去形で言ったのが敗因か?
無言でラァトに抱き寄せられ、苦しいくらいに抱きしめられた。
「マモリ…っ。 私と、別れたいのか」
あぁ、やっぱりソッチの方向に誤解してる。
「別れたくない、ずっと、ラァトの奥さんでいたい……」
「では、なぜ」
抱きしめたまま離してくれない腕の中で告白する。
「落ち着いて聞いて欲しいんだけれど。 私は、この世界の人間ではないってことが一つ。 もう一つが、虹色の魔石は私が作ってるってこと、で」
「この世界の人間ではない? 魔石を作る?」
案の定怪訝な顔をするラァトに、自分はここではない世界の地球という星の日本という国の人間であると説明し(違う世界の存在云々は、結局理解してもらう事は出来なかった。 多分ラァトの中では、この世界にある遠い遠い国の人間なんだろうぐらいの認識をされてる)、魔石については実際に見てもらう事にした。
万全を期すために、ラァトに庭から小石を拾ってきてもらい、一緒に台所でその小石を洗い、口に入れる。
何か言いたげなラァトだったが、とりあえずは見守ってくれているのでひたすら石を舐める。
そして出すと綺麗な虹色の魔石が出来上がっていた。
しっかり水洗いしてから、軽く磨いてラァトの前に出す。
ラァトは私の手のひらの上の小さな虹色魔石をそっと摘み上げ、多方向から観察した。
「確かに…虹色魔石だ。 本当に、マモリが……?」
終始眼の前で見たことなのに信じられないようで、念を押してくるラァトに頷く。
「見たでしょ? 本当に私が作ったの。 だから、ね。 舐めて魔石なんかを作れてしまう人間なんて、可笑しいでしょ? こんな気味の悪い人間……」
離縁されても不思議じゃない。
なのに、ラァトは少し気の抜けた表情で。
「それだけか?」
と聞いてくる。
「そ、それだけ、と言われればそうなんだけど。 嫌になったでしょ?」
そう率直に聞けば、抱きしめられた。
「驚いただけだ。 嫌になどならん」
その一言に、緊張していた私の体から力が抜けて、へたり込みそうになる。
抱きしめてくれるラァトの腕に体を預け、縋るようにその大きな体に腕を回してしまう。
ラァトはそんな私を力強い腕に抱き上げ、近づいた唇に唇を寄せ、小さなキスを繰り返し……時折そっと口腔を舐めてゆく。
「愛してるマモリ」
背景に花でも飛びそうなほど甘い声(※私主観)で、囁かれた。