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92 あに3

 イーシニアルさんに弟子になることを快諾され、この街から馬車で半日の距離の町に住んでいるイーシニアルさんが5日に1回わざわざ教えに来てくれることになりました。


 ラァトからはとにかく魔道具士になるための知識を身につけてくれと言われてます。

 主に法的なこと、そして魔道具の基礎を理解してくれと……。


 あれー? でも、誘拐されて受けた試験じゃ、筆記なんてやらなかったんだけどなぁ…。

 ゲイリーク氏の裏操作でどうにかしてたんだろうか。





「ああ、それでな、ノースラァトが魔術師になったんだけどな、俺は実家を継ぐよりも魔道具士になりたくってさぁ。 あ、そこ、綴り間違えてるよ。 それでね、俺は夢を諦めきれなかったわけよ」


 実技はできないので自宅にて師匠イーシニアルと勉強中です。(※実技は頑丈な建物内アトリエで行わねばならない為)

 私は机にかじりついて、今まで放置していた文字と真っ向勝負しております。

 簡単に言えば、小さい子が習うような文字の勉強から始めました、1日に1学年すすむような勢いで本日で5回目。

 とにかく文字が読めて書けないなんてお話にならないわけでして。

 師匠に無駄な時間を使わせるわけにもいかないので、師匠が来てない間も勉強してとにかく覚えこんでます。

 こっちの言葉を覚える時もそうだったんだけど、まるでスポンジが水を吸収するように、覚えようと努力した分だけするすると覚えられる、……日本に居た時もこんな脳みそだったら、奨学金でも受けて大学に進んで、いい会社狙えたのにっ(いや、それはどうだろう)!

 異世界だから脳みそが変化したんだろうか? まぁ、舐めて魔石を作れるくらいだから、驚かないけどさぁ。

 だが! 不思議な事に! 文字や単語は覚えられるのに、法律の内容等を覚えるのは現行通り低スペックな仕様のまんまなのはどういうことだ? 意味がわからん!




 私が必死で書き取りをしている間中、師匠はいろいろな話をしてくれます。

 頭に入り難くなるから少し黙っていて欲し……げふんげふん。


「んで、休暇で帰って来たノースラァトの記述棒をチョチョイッと失敬してね」


 ふんふん、弟のものは兄の物というジャ○アン的行動ですね。


「まぁ、俺も若かったわけよ、えーと、18歳だったっけかな? 親からは後を継ぐのを期待されて、弟はあの通り我が道をいくタイプだ。 はい、よく出来ました、次のページいってみようか」


 手本にしている法律関係の本のページをめくり、そのページを書き写す。

 筆記の練習をしながら写本ですよ、一石二鳥。


「あの頃は色々青かったわけよー。 そんな真っ青な俺は、ノースラァトからかすめ取った記述棒で、魔道具を作ろうとしちまったんだな。 現物を見せりゃ親も納得してくれるんじゃないかって、まぁ、甘い考えだわな」


 苦い声音に手を止めて顔をあげたら、手を止めるなと注意される。

 仕方なく、また写本に集中する。


「んで、俺の渾身の作品が出来上がりました、俺は意気揚々と家族の前でその魔道具を披露しました、魔道具は魔石をセットした途端爆発して、俺の右腕は吹っ飛びました、と」


 軽い口調で語られたその内容に手が止まる。

 ……片腕が無いのを見た時に、もしかしたらとは思ってたけど…。


「はいはい、手は動かしてね」


 急かされて、のろのろと手を動かす。

 何か言いたいけど……なんて言っていいのかわからない。


「人に見せる前にまず試し運転をするもんだとか、知ってはいたけど、若さ故の過ちっていうか、根拠のない自信でぶっつけ本番だ。 半死半生だったけどな、丁度"流浪の薬屋"が近くに来ていたから生き延びた。 けど、そんな目にあっても俺は魔道具士になるのを諦められなかったんだ」


 書き終わったページが師匠の左手で捲られる。


「両親を説得して、近所に隠居してた魔道具士に弟子入りして、今じゃ立派な魔道具士なわけよ。 だけどなぁ、ノースラァトだけはずっと俺を認めなかった。 あの事故の後、一言だけ俺に謝って、それからは全然家に寄り付かなくなった。 あいつはさ、自分が記述棒を俺の目につくところに出しておいたことを悔やんでたんだとさ、全く…馬鹿なヤツだよ。 俺はてっきり、あいつは俺を恨んでるとばっかり……」


 尻すぼみの声を聞きながら、一生懸命手を動かす。

 暫くの沈黙の後、いいタイミングで師匠の左手にページが捲られる。


「マモリのお陰で、やっと本音で話し合えたよ。 ありがとうな」



 ………私、何もしていないのですが…?


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