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89 帰宅

 私がソファでぐったりとしていると程無く家のドアが慌ただしく開いて、複数の荒々しい足音がして、思わず飛び起きて身構えたが。


「マモリっ!」


 一番に飛び込んできたのがラァトで、続いて息を切らせたヒルランド。

 ラァトは私を見つけると、飛び込んできた勢いのまま突っ立っていた私を無言で抱きしめた。


「ぶじで、よかった…ぁ、ほんとうに、よか、たで……げほっ、げほっ」

 息が切れすぎてむせているヒルランドをラァト越しに見ると、なんだか随分とくたびれていた。

 いや、ヒルランドだけじゃなくラァトもくたびれて……。


 ひとしきり無事を確認されてから、ヒルランドが詰所へ帰され。

「さて、何があったのか教えて貰おうか」

 ラァトの静かな声に促され、ことの次第をすっかりしゃべりました。

 後々の事を考えて、貰った記述棒も付けて。






「………わかった…」

 私見は入れないように注意しながら、あったことだけを伝えた私の話を聴き終わったラァトは、ため息と混じりにそう呟いた。

 疲れが増した顔をしてます。

 きっと、ずっと探してくれていたんだと思う。

 私は睡眠をとっていたけれど、ラァト達はどうなんだろう。

 睡眠もそうだけどご飯もちゃんと食べていないのではないだろうか。


「マモリ…今回の件は、忘れてくれ」


 え? てっきり、ゲイリーク氏にガサ入れでもするのかと思ったのに。


「不正魔道具の販売は、初犯でも禁固1年、及び犯罪者を示す刺青を入れることになる」

 苦々しく言うラァトのセリフに、思わず頬がひきつる。


「ゲイリークは魔道具組合の実質的な№5だから、マモリが置いてきた魔道具を奴が不正販売であると申し立てれば十中八九それが通ってしまうだろう。 ましてや、本当にマモリが作ったものならば、覆すのは難しい」

 今更ながら自分のしでかした事に冷や汗が流れる。

「ご、ごめんなさい…っ」

 国勤めであるラァトの立場と虹色魔石売りである自分の立場を考えて、青くなる私の頭にラァトの大きな手のひら乗り、緩くラァトの方に抱き寄せられた。

「今回はこちらの失態でもあるから、私達の方でなんとかする。 だが今後は注意してもらう」

「は…い」 


 しおしおと返事をすると、強く抱き寄せられた。




「―――――――っ」


 ため息のような、声にならないラァトの声が直に耳に紡がれる。

 奥底から吐かれるようなその声は、私が生きていた事を喜び、無事に帰ってきた事を喜び、もう一度抱きしめられた事を喜び。


 苦しいくらいの抱擁。



 苦しいのは体だけじゃなくて……。




 私はこんなに心配してくれる人に、本当のことを話さなくてもいいのだろうか。

 違う世界の人間であること、虹色の魔石を作り出しているのは私だということ……。



 言えない……、よね。

 違う世界があるなんて突拍子も無い話を信じてくれる?

 虹色の魔石を舐めて作っているなんて異常、受け入れてもらえる?



 言ったら、きっと、こうして抱きしめてもらえなくなるよね……。






 大きくて、逞しくて、力強くて、この世界で一番安心できるこの腕から見放される日が来るのは、まだ先がいい。

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