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88 旦那の名

「御主人の…説得ですか」

「はい」

 至極真面目な顔で頷いてみせる。

「主人は…心配性なんです。 私の一存で魔道具士の資格を取得したからといって納得して仕事をさせてくれるような人じゃないんです、でも、主人に黙って魔道具を作るなんて…そんなことできません。 だからお願いします、ゲイリーク様のような方から説得していただけたら、主人も納得してくれると思うんです」

 あくまで、私は魔道具を作りたいの! っていうのをアピールしつつ、だけど旦那様が許してくれないのよ? と若干涙目で訴える。



「今更ですが、貴女のお名前と御主人の事をお聞きしてもよろしいですか?」

 

 何か嫌な予感がしたのかもしれない。

 ゲイリーク氏に尋ねられ名前を名乗った。


「マモリ・レイ・ロンダットと申します。 主人は……」


 言いかけたところを、ゲイリーク氏が挙げた手のひらで遮られる。

「御主人はもしかして―――――ノースラァト・ロンダット氏ですか」

 頷いた私に、ゲイリーク氏の表情が若干硬くなったのは気のせいか。


 だが表情が硬かったのも一瞬で、ゲイリーク氏は口元に愛想のいい笑みを浮かべる。

「彼が戻ってきていたとは驚きました。 あぁ、少々面識がありまして。 そうですか…いや、ノースラァト氏が貴女のような素敵な奥様を得られていたのも驚きました、いつ御結婚を? 最近ですか、それはおめでとうございます」

「ありがとうございます」

 少しはにかみつつ礼を言っておく、あくまでラブラブーな夫婦であるように。


「しかし、それならば困りましたな、まだ蜜月なのでしょう?」

「えぇ……そうです」

 蜜月だと何か困ることがあるのだろうか、ゲイリーク氏が思案する顔をした。


「マモリ様、誠に勝手な事で恐縮なのですが、この度の我社との契約の話、無かった事にしていただいてもよろしいでしょうか。 蜜月の婦人に仕事をさせるなどという事はあってはならないことですしね。 あと、そうそう、こちらをお返ししておきましょう」

 そう言って渡されたのは私のポーチだった。

「外のポケットに魔石を入れる様式の魔道具だとお見受けしましたが、魔石が切れていて…どの種類の魔石を入れても作動しなかったのですが、コレは一体どのような魔道具なのです?」

 魔石の魔力切れ! なんてラッキー!!

 ポーチを受け取り、何と答えたものかと思案しつつも、ポーチに異常がないのをサッと確認して。

「これは雨に降られても中の物が濡れないようになっているんです。 便利でしょう?」

 得意げに答えると、ゲイリーク氏は苦笑気味に納得してくれた。

 雨よけ布と呼ばれる、ろうか何かで撥水加工を施した布が存在しているので、魔道具として撥水処理をするのは酔狂以外ありえないからね。


 気を取りなおしたゲイリーク氏は胸ポケットから数本の記述棒を取り出し。

「折角のご縁です、お近づきの印にこちらをプレゼントしましょう。 どうぞ有意義にお使いください」

 問答無用で記述棒を数本握らされる。

 慌てて返そうとすると、笑顔で拒絶される。

「いいんですよ、どうぞお持ちになってください。 そうですね受け取れないとおっしゃるのでしたら…それは、あの温風を作り出す魔道具の代金だと思ってください、あの魔道具は商会にて預からせて頂きますから」

 ……口止め料を受け取れということですね。

 そして扇風機はしちということだろうか、自分で作った魔道具を自分で使う分には法的に規制は無いが、販売することは違法行為に当たるわけだし。


 もしも、扇風機が私から商会に販売されたものだと証言されたら有罪だよね。



 もう…無事に帰れるならそれでいいや。

 とりあえずこの場は物分りの良いフリをしておこう、後は帰ってから様子を見てラァトに相談しよう。

 遠まわしに”黙ってろ”的なことを言われたところで、文字で約したわけでも、ましてや口頭で約束したわけでもない。

 押し付けられた記述棒を受け取り、ポーチに入れた。





 その後、散々市街地をグルグル歩いて屋敷までの道のりが十分に分からなくなってから、無事街中で開放されました。


 すごく疲れて帰宅。

 

 ポーチはテーブルの上に置き、ソファにぐったりと座り込む。




 ………早くラァト帰ってこないかなぁ。


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