84 失笑
「……ものの見事に引っかかってくれる。 おい、寝るなよ、さっさと解毒薬を飲んでおけ」
赤髪の男はうつらうつら始めた灰色の髪の男にそう注意をする。
「あぁ…やっぱり、”薬屋”の薬は良く効きやがらぁ。 耐性のある俺ですらこうだ、嫌になっちまわぁなぁ」
灰色髪の男は気を抜くと遠のきそうになる意識を気力でつなぎながら、ポケットから取り出した小瓶の液体をクイッと一息に飲み下す。
「うぇぇぇ」
「吐くな。 飲んだらさっさと移動するぞ。 ここがバレるのも時間の問題だ」
ぱっぱとテーブルの上の睡眠薬入り料理を片付ける赤髪の男に、灰色の髪の男はダルさを全開にしてソファの背もたれに両腕を広げだらしなく座ったまま手伝おうとはしない。
「バレやせんだろぉ。 バレたところで、この家の名義はアノヒトだ、踏み込めやしねぇ」
喉の奥で低く笑う男に、赤髪の男は否を唱える。
「そうもいかん、この娘を探しているのは、最近赴任してきた中央の魔術師二人だ……厄介な人間を引いたかも知れん」
苦々しくそうこぼす赤毛の男は、自らカートを押して食器を下げに行く。
それを目だけで追ってドアが閉まったところで、視線を目の前で無防備に寝ている娘に戻す。
「魔術師二人かぁ……」
つぶやいた声はウキウキとして、まるでこれから起こることを楽しみにしているかのようだった。