75 やっぱり戻ってきちゃった、てへっ!
夕焼けの街を抜けて自宅へと向かう。
そして、市民街から高級住宅街及び官舎がある区域の間にある擁壁を抜ける手前で、攫われました。
二度目ですね、誘拐されたの……。
「やっぱり気になったから戻ってきちゃったよぉ。 ごめんねぇ、奥さぁん」
悪いと思うならしないでほしい。
こっそりとナイフを当てられている状況では文句も言えません。
ナイフで脅されたまま、商店街を逸れて街中をグルグルと歩きまわり、やがて一軒の家に入った頃にはもう日もすっかり落ちて、自分が何処に居るのかよくわからなくなっていました。
一人で帰れないです。
周囲のお家と同じ、景観に配慮された一軒の家の中は…これまた普通。
居間に通され向かい合わせのソファに座らされる。
そして、隣に灰色髪のせむし男が座る。
居心地が悪い。
もうナイフは片付けられたけど、傍らの男はだらしなく半身をこちらに向けまじまじと私を観察しているし。
「なぁ、あんた、何処の国のヒト?」
髪を一房指先に絡めて、ニヤニヤと聞いてくる。
「この国の人間です」
結婚したんだから間違いではない…よね?
「へぇぇ、そぉ? この肌、絶妙だよねぇ」
「日焼けです」
「そぉ? その割にこっちもいい色だよねぇ」
くいっと衿元を引かれて、服の下の肌を見られる、エロめ!
無言で手を掴んで離させると、あっさり手が離れる。
「昨日までは無かったのにねぇ。 昨晩は旦那と頑張ったのかなぁ? んんー?」
下世話な! 思ってても言うもんじゃないでしょう。
そして顔を近づけるな。
既にソファのギリギリ端っこまで尻を異動させてるから、逃げ場が無い。
「下品なことはやめろ」
ゴッ…という鈍い音と共に、灰色の髪の男が沈んだ。