74 灰色の髪の男
二度あることは三度あるという言葉通り、また、引っかかった。
「やぁ、お嬢さん、奇遇ですねぇ」
灰色の髪の下でニタリと笑む口元だけ見えるせむし男。
奇遇じゃない、待ち伏せしといてそれは無い。
家から一直線に雑貨屋(に油が売ってるので)に来て、一直線で帰る。
確かに雑貨屋は街の真ん中辺りだが、記述棒屋はもっと先だ。
そして、あんたは明らかにずっと向こうに居た、私は気づいて早足で逆方向に歩いた。
なのになぜ、息も切らさず横の路地から出てくるのかなぁ。
きもちわるい。
「さぁて、ご所望の品、ありやすぜぃ?」
記述棒をこっそり見せてくる男に、ゲンナリする。
「要りません」
足は止めずに拒絶する。
「まぁたまた、お嬢さぁん、この前買ったのはどうしたんですぅ? もう使っちまったんでしょう? 何をお作りになったんですかぁ、ちょっと教えて下さいよぉ」
せむし男は両手をポケットに突っ込んだまま私の耳元に声を吹きこんでくる。
私のセカセカした足取りとは違い、ゆったりとした歩調でついてくる。
「くっくっく……どうです? お嬢さん、もっと堂々と魔道具を作ってみたくはないですかぁ? 良い話があるんですよぉ?」
口調は気持ち悪いが声質は悪くない、むしろ良い声してるのに。
それにしても、いい話ってなんだろう、魔道具を堂々とつくるってことは師匠に弟子入りってことだよね?
「師匠を持つには、金がかかりすぎて私には無理ですので、他をあたってください」
「いえいえ! お金はかかりませんよぉ。 少しお時間いただけますかぁ? 詳しい話は……おやぁ、お嬢さん、いや奥様でしたか、これは失礼」
せむし男は不意に言葉を区切ると、素早い動きでクィッと私の衿元を引っ張った。
「なっ!!」
絶句している私の首筋を、ざらりとした指先が撫でる。
「残~念んん。 あぁぁ、残念すぎるぅ」
私が手をはたき落とす前に衿から手を離したせむし男は、そう言いながらしゃがみ込んだが、突然立ち上がると、くるりと回れ右をして街の中へ消えていった。
………なんだったの?
呆然とする私に答えてくれる人は居ない。