72 夫婦のしるし2
「では、こちらにも頼む」
くったりしているところに低い声でラァトに囁かれて、一瞬固まってしまいましたが。
そうですよね、結婚指輪的なものだとしたら、旦那様にも必要ですよね。
まぁ、キスマークを付けたことが無いわけではないですから、いいですけど?
「じゃぁ、失礼しまーす」
膝立ちになり、ソファに背を預けているラァトに向き直る。
どこにつけるのがいいかな、あんまり目立つところにつけるのもいたたまれないよね、私が。
ラァトのシャツのボタンをひとつ外させてもらって、すこし衿元を広げて左側の首の根元辺りに狙いをつける。
チュゥッ――――
吸い上げる音にぴくりとラァトが揺れた。
くすぐったいのかな? まぁ私も我慢したし、ラァトにも我慢してもらわなきゃね。
段々調子が出てきたぞ、と。
こう横からだと体勢が悪い、ぃよっと! ラァトの膝の間に片足を入れて、うんうん、やっぱり正面からやったほうがやりやすい。
「――――ひとつ目完成ーっ。 次ー」
「マ、マモリ…っちょっと待―――」
待ちませーん、くいっとラァトの顎を持ち上げてちょっと首を横にして、吸いつきやすくなった首に唇を落とす。
気がつけば、ラァトのシャツのボタンを全開にして膝の上に座り、首筋と言わず肩や胸の辺りまで跡を付ける。
ひとしきり楽しんでからぺっとりと張り付いていた体を起こし、綺麗な筋肉のラァトの体に散ったキスマークを見る。
我ながら、良い仕事をしました!
それにしても、なんて素敵筋肉なんだろう…。
魔術師って、もやしっ子っていうイメージがあったんだけど。
いや、今日会った少年は確かに華奢っぽかったぞ、お城で会った偉そうな人も普通な体型だったはず。
ということは、ラァトが特別?
なんてことを考えながら、ぺたぺたと筋肉に触れているとため息と共に声を掛けられた。
「……もう気が済んだか?」
なんでそんなに息も絶え絶えなんですか?
「どれだけ我慢してると思ってる」
!?
「襲うぞ?」
!!
「失礼いたしましたっ! それでは私、お先に就寝させていただきますっ! おやすみなさい!」