68 お久しぶりです
早足で歩く私に、せむし男は苦もなくついてくる。
身長的には私よりも大きいから、歩幅が広いんだろうな。
「先日は、うちの娘から買っていただいたようでぇ。 どうです、ほら、今日のは新品ですよぉ」
分厚く大きい手のひらの中に隠しながら無理やり見せてきた記述棒は確かに新品のようだった。
買いたい欲求が高まり歩調が緩まった瞬間、心の隙を突くようにすかさずせむし男に肩を掴まれる。
「へっへっへ。 お代はすぐ頂けるんで?」
顔を近づけて小声で聞かれ、思わずのけぞった時。
「おい! 何をしているんだ!」
張りのある声と共に、せむし男と私の間に濃紺の髪の毛を持つ誰かが割って入った。
「へっ、邪魔が入りやしたねぃ」
せむし男は路上につばを吐き捨てると、間に入った人が捕まえようと伸ばした手をするりと抜けて、流れるような歩みで町の中に消えてしまった。
私と残された人……えぇと、このマントは魔術師の人が着るもので、色が薄いので見習い?
振り返った魔術師見習いの彼は、私の顔を見て一瞬驚いて、それからふわりと笑った。
「ああやっぱり! 覚えてませんか、僕のこと。 そうだ! 頂いた虹…魔石の代金、まだお支払いしてなかったですよね! あの魔石のお陰で、無事に任務を果たすことができました。 本当にありがとうございます」
同じような身長の彼に両手を握られ、ぶんぶんと上下に振られる。
……えぇと、話から予測しますと、あれですね、以前人攫いに攫われた時に、助けを呼びに行ってくれたあの少年ですね。
よく私のこと覚えていたなぁ、私はすっかり忘れ……げふんふげん。
「こちらこそ、助けていただいてありがとうございました」
そろりと掴まれていた手を解いて、にっこり笑ってお礼を言う。
濃紺の髪に若々しいダークグリーンの瞳を持った少年は、人好きのする笑顔で私をお茶に誘ってきた。