67 買い出し
冷蔵庫とにらめっこしても食材は増えません。
それはもう、日本に居た時からわかってることなんだけれども。
魔法があるんだから、勝手に食品が増える冷蔵庫があってもいいじゃない……良くないな、いろんな所から怒られそうだ。
荷物を入れるカゴと予備にマイバッグを持って、市民街へと繰り出す。
ひと通り食材を買い込んで、雑貨屋にてシャンプー(固形)とリンス(液体)を購入して帰路へつく。
記述棒を売ってるお店の前を通る時に、つい未練の視線を送ってしまうのは致し方ないことだと思います。
記述棒を不正入手するのは諦めるけど、魔道具を作ることを諦めたわけじゃないから、地道に式を作っていこうと思う。
保身ですよ、保身。
自分の身は自分で守らないとね、いくらラァトが味方だとしても、彼は国側の人間だし……最悪の想像はしておくに越したことはない。
もし式を見られたとしても日本語で書いてるから、この世界の人には何のことやらわからないだろうし。
ああそうだ、練習用の紙も買っていこう、紙ってお高いけど王都で貯めてた貯蓄もあるから大丈夫。
雑貨屋に戻るためにくるりと踵を返したとき。
「お嬢さん」
低い声が路地から聞こえ、思わずそちらを振り向いてしまった。
路地の影になる場所で灰色の髪をした背の大きく曲がった男がニタリと笑い、手の内に隠した記述棒らしきものを一瞬見せてきた。
――――よし、見なかったことにしよう。
記述棒は喉から手が出るほど欲しいが! あんな危険な匂いのする人間に近づくわけがない。
視線を逸らし足早に離れようと歩き出すと、いつの間にかすぐ後ろに人の気配がして、そちらを見れば……。
「お嬢さん、どぅです? 安くしておきますよぉ」
背の曲がった男が至近距離で、くすんだ灰色の髪の下でニタリと笑い、手の中の記述棒を見せてきた。
悲鳴をあげなかった自分に拍手。
いや、むしろ悲鳴をあげて逃げておけばよかったと、後々後悔しましたとも。
男の外見の記述についてご指摘をいただきましたので修正いたしました。
ご指摘くださった方へ、「ありがとうございます」