64 時間は少々戻り、ノースラァトの事情
立ち上がりかけたところを妨害されて、あっけなくベッドに尻餅をついた膝の上に、ふわりと、小柄な彼女が乗り上げた。
向かい合わせになり、見上げてくる。
目が潤んでる。
可愛い――――
思わず見つめていると。
「イイヨ」
彼女がそう言った。
イイヨ………
この体勢で、いい、ということは……思わず、ゴクリと唾を飲んでしまった。
カァッと体の奥に熱が集まってくる。
抱きしめようとしたとき、マモリがもう一度口を開く。
「好きって言って良いよ」
そう言って、ぎゅっと抱きついてきた小さな体、有り体に言えばふんだんな柔らかさを持つ彼女の2つの胸の膨らみを感じて、熱を集めはじめていたソコが一気に―――。
更に何か言おうと、私の胸元から顔を上げたマモリだったが。
開きかけた口のままに、時を止めた。
………。
ギギギギッと音でもしそうな動きで腰を引き、そのまま私の膝から降りる。
そこから先は素早かった(彼女にしては、だが)。
ご飯を作らなきゃと、棒読みで言い。
私の顔色がまだ悪いと無理やりベッドに寝かせ。
慌ただしく部屋を出る足音と、少し乱暴に閉まるドア。
「ぷっ! ……く、くっくく」
抑えようとしても、漏れる。
あぁ、なんて可愛いんだろう。
それにしてもだ、確かに彼女が危惧するように、彼女と私の体格差は大きいな。
そちらの対策も立てつつ、ゆっくりと彼女の心を掴んでいこう。
幸い、彼女は私の奥さんだ。
毛布の中にしまわれていた手を出し、目の前にかざす。
右手にはもうマモリの腕を握っていた感触は残っていないが、罪の意識が残っている。
感情が暴走した……。
記術棒・魔道具・誤記・魔道具の暴走
フラッシュバックする記憶。
忌まわしい、あさはかな行動による事故。
失われた兄の半身。
上げていた腕を目の上におろす。
暫くそうしていたら、そっと部屋のドアが開き、マモリがひょこりと顔を出し朝食をどこで食べるか聞いてきた。
「ご飯できたけど、ベッドに持ってこようか?」
先ほどのことなど忘れたかのようなマモリの態度が私を癒す。
台所に向かいながら並んで歩くマモリの頭をそっと撫でた。