60 治
怒りに任せて、マモリの腕を負傷させてしまった。
手当をしようにも、近づかせてくれない。
痛みに涙を流しながら、手負いの獣のように警戒する。
「マモリ、頼むから、手当だけ――」
「要らない! 私に近づかないでよっ」
腕をかばいながら、ジリジリと逃げるマモリ。
その距離を強引に縮めたほうがいいのだろうか、それとも少し冷静になるのを待つべきか。
逡巡している間に、隙をつかれて部屋に逃げこまれた。
「入ってこないでよっ! ラァトなんて大っキライっ!!」
ドアの前に立った瞬間に怒声がドアの向こうから投げつけられ、暫くすると中が静かになった。
部屋のドアをそっと開けて中に入る。
マモリは目を閉じていた。
眠っているのか、気絶してしまったのかはわからないが丁度いい。
ベッドに近づき変色して腫れ上がっているマモリの左腕を出す。
いつも自分の腰に下げている袋から大きめの虹色魔石を取り出して右手に握りこむ。
治癒系の魔法は苦手だが、そうも言ってられない。
ベッド脇に膝をつき、マモリの左腕の上に魔石を握りこんだ右手を掲げる。
「”復元”」
怪我を治療するための言葉を詠唱すると、魔石はパキッと音を立てて砕け散り、指の隙間からこぼれ落ちた。
だが、マモリの腕の腫れは引かない。
失敗したようだ。
もう一度魔石を取り出す。
深呼吸し、もう一度詠唱する。
「”復元”」
魔石が呼応するように鈍くひかり……少しだけ腫れは引いたようだが、完治とはいかない。
負傷の為にか発熱をしだしたマモリ。
合計5個の虹色魔石を使って、なんとか”復元”を成功させたが、自分自身の魔力も手加減せずに消費した為にもう動く気力がない。
「―――慣れないことはするもんじゃないな」
自嘲がこぼれてしまう。
戦闘系の魔術ばかりを伸ばすのではなくて、不得手な分野も訓練しておくんだったな。
すっかり腫れも引いたマモリの左腕をひと撫でする。
上がっていた熱も、腕の負傷が癒えた今は落ち着いたようで、苦しそうだった寝息も健やかなそれに変わっていた。
そっと握っていた手の指先に口付けてから、毛布の中にその手を戻す。
ベッドの側面に背中を預けて座り込みながら、カーテンの隙間から空が白んでいくのが目に入ったが、魔力の使いすぎで体が重く腰が上がらない。
体が眠りを欲していた。