57 下書きは重要
「いってらっしゃい。 今日も早く帰ってこれる?」
お見送りをする私の頬にキスを落としたラァトは、今日は遅くなりそうだとの答えをくれた。
家に戻ると大急ぎで家事を終わらせる。
掃除、洗濯、夕飯の下準備 その他諸々の雑事。
そして、筆記用具を持ち出す。
えぇ、昨日の続きですよ、むしろ今日からが本番です!
昨日何回か失敗した事で、反省したのよ。
ぶっつけ本番で書くと、関数を間違えた時大変危険であるとね。
そうして気がついた、最初に別の紙に下書きしてからチェックして、清書すればいいのだと。
本日は急務であった別の空間を作ってそこに物を保存する為の式を考える。
急がなきゃならないものは他にもあって、監視の目をくらます、あるいは存在自体を感知させなくする為の式。
物理的に捕まえられないようにするために、摩擦係数を限りなく0に近くする式も欲しい。
どれも、面倒くさい式になること請け合いなので、一つ一つじっくり取り組もうとおもう。
隔離空間を急ぐ理由は、虹色魔石が関係する。
もうそろそろ、どうやって仕入れているのかが問題になっているだろう、いや、むしろもうなってる。
自家生産していることは永遠の秘密なので、言い訳が必要だ。
それにはコレが重要なのである。
・異空間の作成。 空間サイズの指定と、中身の時間を停止させる効果を付随する
・出し入れ時、任意のものを取り出せるように、検索を掛けられるようにする。
・盗難対策として、個人認証をする。
・魔石の魔力切れの際に空間が消滅するかもしれないので、実際にどうなるのか検証をしておく。 あるいは魔力切れを起こす前に警告がでるように設定する。
どうよ、ちらーっと考えただけでこれだけ出てくるのよ、面倒くさい式になることがわかるでしょうよ!
式に必要だと思われる機能の箇条書きを見て軽くため息が出たが、やらねばなるまい。
何度も何度も何度も書きなおした。
そして、関数式じゃ無理だということを実感した。
だがしかし! こんな事でへこたれるような事務人間じゃありません、卒業した高校の商業科では情報処理の科目が必須なんですよ、幸いここでは文字のもつ意味が重要であって、英単語で記述しないでも大丈夫なのであるわけだから。
*******
ポーチ内に異空間Aを設定する
異空間A=(size(100*100*100),空間内の時間停止)
ポーチを開く
保有者を認証する
=if(保有者="マモリ",異空間Aへ,ポーチ内へ)
検索窓を開く
視認は保持者のみ
窓位置=ポーチ横
キーボードの表示
*=ワイルドカード
検索ワードを受け付ける
=if(YES,保有者の手元に対象物を移動,"対象物はありません")
ポーチを閉じる、異空間Aを保存して終了
*******
式…色々混ざってるけど大丈夫かな。
それにしても基本だけで、こんだけ……。
あとは、これを実行したときに出てきそうなエラーを予測して言葉を足さないといけない。
手を突っ込んだ時に時間を止めてある異空間に手を囚われるとか、洒落にならないですしね、ふふふ…。