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5 宿屋の主人
「俺でさえ……モーニングキスしてもらったことねぇのに……くそがっ!」
という台詞と共に、勢いよく丼がテーブルに置いていかれる。
足音も荒く厨房に戻るご主人。
いや、モーニングキスもモーニングコール(?)も要らないし。
あなたの嫁の暴走を止めてください。
そして、スペアキーを彼女に渡さないでください。
「いただきます」
目の前の丼に手を合わせて、スプーンで掻っ込む。
親子丼美味し。
醤油が無いから塩味だけど、美味し。
着々と日本の味をこの宿に侵食させてゆく。
問題の多いこの宿を変えれないのは、性格に難在れど料理の腕は一級品であるご主人の飯のせいだ。
胃袋を掴まれるとはこういうことをいうのか……。




