表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/108

48 時間は少々戻り、ノースラァトの事情

「おやすみなさい」

 そう言って、彼女はころんと横になって眠りについた。


 彼女の横には、一人分の寝床が空けられている。


 流石に一緒に寝るわけには行かないからと、当初は荷台の外で寝るつもりだったが、彼女が気にしないのならばと、彼女が空けてくれているスペースにゴロンと寝転び、毛布をかぶる。



 すぅすぅと、規則的な呼吸。


 寝返りを打って、彼女の方へ体を向ける。

 本当に危機感の無い女性だ。





 初めて出会ったのは夏の盛り。

 知り合いの魔術師から聞いた虹色の魔石を売る娘、真相を知るために手の者を使って街を張り込ませ、彼女がテントを出した報告を受けて自らそこへ足を運んだ。


 小さなテントの床いっぱいに、簡素な敷物を敷いて座る少女、その目の前に少し華やかな小布を広げて……虹色に光る魔石を数個、無造作に置いていた。


 伝わる魔力で、それが魔石であることはわかるが、虹色というのは見たことも聞いたこともない。


 狭い入口近くに膝をついて、その魔石を手に取る。

 ―――――恐ろしいことに、総ての属性の波動を発していた。

 ひとしきりその魔石を検分してから、やっと自分を見つめる彼女に気がついた。


「……いらっしゃいませー」


 気の抜けた声を掛けられる。

 敷物の上にぺたんと座っている、小柄な少女は少し大人びた微笑を浮かべていた(※1)。

 だがその時の私は、彼女よりも初めて見る虹色の魔石に興味がいっていて、布の上に出ている魔石を手持ちの金をはたいて買い漁ることしかできなかった。




 その店は不定期に現れる。


 ある日からテントの前に手作り感丸出しの木で作られた看板らしきものが掛かっていたが、書いてある文字は異国のものらしく読めなかった。

 どうやら少女の故郷の文字らしい。


 この文字を使う国に、虹色の魔石があるのだろう。

 文字を写し、王宮の図書資料館に頼んでどこの国かを調べてもらった。

 結果は、該当する国は不明だということだった。




 何度も通ううちに、彼女の無用心ぶりに呆れを覚える。


 町の警備の者に彼女をそれとなく見守るように通達は出してあるものの、店が出るのに日にちが空くと心配になる。


 彼女の姿をみるとほっとする。


 上役から一度虹色魔石の販売者を王宮に呼ぶように命じられたその直後、例の人さらい集団の摘発があった。

 囮となり捕まっていた魔術師が、同じく虜囚となった民間人の少女から虹色の魔石を託され王宮に駆け込んできた。

 虹色魔石は魔術師内で極秘に周知されてはいるが、高位の魔術師しか所持していない。

 下っ端の若い魔術師が手にできるようなものではない。



 思い至る結果に、ぞっとした。


 囮役だった魔術師に確認すれば案の定、私のよく知る彼女の特徴を聞かされる。

 管轄外の件だったが、じっとしていることなどできなかった。

 私があの少女を守らねば、誰が守るのだと。

 庇護欲などというものが自分の中にあることを初めて知った。


 自覚をすればあとは行動だけだった。

 人さらい組織の壊滅に、自分の管理する部隊をねじ込んで殲滅した。


 彼女を守る。


 無事に連れ帰った彼女が疲れて正常な判断ができないのを良い事に、言いくるめて…彼女がすでに成人していたのには驚いたが、これ幸いにと嫁にした。


 私の絶対的な庇護下に。

 彼女マモリを守るのは私でなければならない。


 いつも大人びた瞳で、決してこちらに媚を売ることをしない。

 人好きのする笑顔はくれるが、彼女の事を聞こうとしても上手くはぐらかされる。


 もしかしたら、見た目よりも年が上なのかもしれない。

 



 マモリが成人している女性だと知って、やはりと納得した。

 弱音を吐かず、一生懸命一人で立つ強さを持つ。

 そんな彼女の瞳の強さに惹かれた。


 契約での結婚だと彼女は言っているが、私としては純然たる婚姻だ。

 けれど、急にそんなことを言っても彼女は困るかもしれない。

 何度も”契約結婚”だと念押しをするくらいだから。


 けれど……少しぐらいの愛情は、有ると思ってもいいだろう?

 少しは私のことを…好きだと思っていてくれるから、こんな無茶な婚姻だとはいえ承諾してくれたのだろう…?

 下着も総て私に選ばせてくれたし(※2)…本当に名目だけの夫婦ならば、下着を選ばせるようなことはしないだろう?


 マモリ、君の中に有るだろう私への小さな愛情をもっともっと大きく育てたい。

 そして願わくば、彼女とふたり、温かい家庭を作りたい。







 深夜、寒いのか小さな体を更に小さくするマモリに気づき、起こさないように注意しながら抱きしめる。

 小さな背中を抱え込んで熱を分けると、寒さに緊張していた体から少し力が抜けた。



 腕の中の温もりに癒されながら、うつらうつらしていると、腕の中でマモリが身動ぎして小さくしゃくりあげる声が聞こえた。


 悲しい夢でも見たのだろうか、それとも郷里を恋しがっているのだろうか。



 驚かさないようにゆっくりと腕に力を込め、抱きしめた私を…彼女は拒絶しないでくれた。


※1 それは営業スマイルだ。


※2 こちらの世界では結婚すると、夫婦がお互いの下着を総て選ぶという習慣がある為。独占欲と浮気防止。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ