42 転勤
訳のわからないことを言うラァトをお風呂に押し込めて、夕飯の準備を再開する。
夕飯の準備の関係上ゆっくり入って欲しかったのに、カラスの行水で出てきてしまった空気を読まないラァトが上半身裸だったので、とりあえずさりげなく観察しておいた。
うむ、魔術師なのに良い筋肉をお持ちで。
眼前で割れた腹筋や盛り上がる上腕二頭筋等々を見たのは初めてです、眼福ですね。
おっといけない、視姦するのはいけない、これからも一緒に暮らすのだから初手で警戒されては後々…げふんげふん。
煩悩を振り払うようにセカセカ動く私を、椅子に座って濡れた藍色の髪を拭きながら見守るラァト。
はっきり言って気が散る。
「いただきます」
両手を合わせてから食事を始める私と、無言で食事を始めるラァト。
半分程食べてから、ラァトの食事の進みが悪いことに気づく。
「お腹でも痛い? それとも口に合わなかった?」
私の言葉に、顔を上げたラァトは意を決したように口を開いた。
「転勤になった」
……転勤?
「アザトール地方だ」
知りませんがな、この世界の地名なんて。
「…へ、へぇー? そうなんだー」
「急だったから蜜月も返上して勤務しているというのに」
みつげつ?
新婚期間的な何かなのかな?
「不甲斐ない夫ですまない、マモリ」
おぉう、急に名前を呼ばれて思わず心臓が一拍だけ高鳴りましたよ。
「し、仕事なら仕方ないよ、ねっ?」
動揺したのをごまかすように笑顔でフォロー。
すると萎萎していたラァトは少しだけ元気になったようで。
「ありがとう、マモリ。 それで、出立なのだが、明日の朝だ」
うん、ちょっと待て。