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ラァトの有給休暇(的な何か)の関係で、魔術式記述資格者証を受け取った翌日早朝に宿を出て昼前には帰宅。
馬にはもう乗りたくなかった…… 馬車希望。
さて、帰ってきて落ち着いたところで、現状は以下のようになっているわけです。
魔術式記述資格は取れども作る場所が無い。
魔術式記述資格者証はあるから、記述棒は購入できるが使う場所が無い。
新参者が工房を持つには、この街は厳しすぎるのです。
塀で囲まれているこの街には、まず余っている土地がない。
土地があったとしても建物の建築、特に工房の建築には制限が多い為、新規で工房を建設するのはほぼ不可能。
そもそも、魔道具士として商売をするにはこの街の外での実績が必要で、商売人以外が工房を持つことができない。
そんなわけで、こつこつ式を考えてノートに書きためてます。
機会があればすぐにでも作れるように材料も準備してます。
超高燃費だった素敵ポーチの改良した式も完成しています。
扱いやすい柔らかい皮を手に入れポーチの型も取って記述場所以外の細かいパーツの縫製も終わってるので、あとは式を入れて仕上げるだけ。
同じ皮でラァト用に作っている私のよりも大きめのポーチも途中までほぼ出来ているんだけど、いつ完成するのやら……。
すっかりジレンマに陥りながらも、日々の生活はあるわけで。
市民街で買い物をしていると……嫌な人に出会いました。
「やぁ、奥さぁん。 久しぶりだねぇ、元気だったかぃ」
ニヤリと笑うせむし男にざわっと鳥肌が立ち、顔がひきつった。
「いやいやぁ、警戒しなくていいよ。 ウチの旦那に、アンタには関わるなってぇ言われてるからなぁ、どうこうするつもりぁねぇよ」
両手を広げて無害をアピールしようと、警戒を解けるはずもない。
警戒しまくっている私と、怪しげなせむし男を人々は大きく避けて通り過ぎてゆく。
「おやぁ? おやおやぁ、こいつぁいけねぇや」
周囲を見回し、今さらながら周囲の人たちに不審がられているのに気づいたらしいせむし男は、ふらっと路地の方に入り込んだ。
よし、今の内に!
踵を返して数歩進んだところで。
「はいはい、折角の再会だしよぉ、そう急がなくてもねぇ」
そう言いながら私の進路を塞いだのは、紛れも無くせむし…だった灰色の髪の男だが。
背筋を伸ばし、着ていた分厚い上着を肩に引っ掛けて、ボサボサだった髪を後ろに撫で付け一つに束ねると、パッと見さっきのせむし男には見えない。
「急いでますので、失礼します」
若干気分も悪くなってきたので、早々に離れたい。
そんな私の心情などお構いなしで、灰色の髪の男は私の腕を取ろうと手を伸ばしてくる。
体が動かない。
逃げなきゃならないのに、足が動かない。
また捕まる……っ
「"静止"」
久しぶりに聞いた、魔法を使うときの独特な声。
魔法の対象になった灰色の髪の男が手を伸ばしかけた中途半端な姿勢のまま固まり、私と灰色の髪の男との間に私より少し大きな体が割り込む。
「大丈夫ですか、マモリさん」
少しだけこちらに視線を向けて、私が頷くのを見て顔を前に戻したのは、ヒルランドだった。
「ジッテ・ベルヒュール。 記述棒の取引の事で聞きたいことがありますので、このままお付き合いいただきます」
堅い声でそう告げたヒルランドは、ジッテと呼んだ灰色の髪の男を一緒に来ていた市中警備の男性ふたりに引き渡し、そのまま何か指示を出し連行させた。
そして私はヒルランドに連れられて帰宅。
詳しい話を聞く余裕もなくヒルランドは仕事に戻ったので、一体何がなにやら。
とりあえず、今夜の夕飯のおかずである餃子の生地を無心で捏ねながらラァトの帰宅を待ちました。