午後の罠にご用心
いくらなんでも更新がのんびりですね、反省。
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01:29p.m.
走って走って、走りきって、早くも息切れだ。
今は川沿いの道を歩いているところ。
このまま行けば大通り商店街。
その近くにある、品揃えがいいと思っている本屋が頭に浮かんだ。
買いたい本があったことを思い出し、逃げ回るついでによってみたいところだけど、行ってものんびりできないだろうと、あきらめる。
よくわからないけれど彼は、わたしの居場所がわかるようで、何故か“偶然”会う、会ってしまうことがよくある。
それでなくとも知らない彼の知人たちに声をかけられ、そしてその後、わたしは彼に捕まることもしばしばだ。
……油断できないな、と思う。
大通り商店街をぬければ駅に着くから、とりあえず、目的地は駅として。
息を整えつつも、わたしは駅に向かおうと歩き続ける。
落ち着きをとりもどしたところで、さきほどのことを思い出していた。
口が動かない代わりに、頭は余計に働くようだ。
食べかけのスパゲッティがおしい。
ひき肉たっぷり、具だくさんのミートソース……。
微妙な汁気具合がとてもおいしかったのに、黒沢さんのあんちきしょう。
残ったスパゲッティはどうなったんだろう。
まりちゃんのしてやったり顔が、どこかにくい。
だらしなかった朝とは一変した彼が、一番にくい。
すこーしだけ。
ほんのちょっと。
格好良く、洒落た服装をしている彼に。
心臓がはねただなんて、嘘だ。
絶対、気のせい。
○
02:10p.m.
携帯電話の着信音が鳴ったと気づいて、相手は兄だった。
顔を思い浮かび、しばらく携帯電話に表示されている兄の名前である文字を睨む。
しぶしぶ電話にでると、案の定、兄の声が聞こえてきた。
いつもと何だかテンションが高めのようで、ちょっとおかしい気もするけれど。
『おい何だよ、早く出ろよー』
「……気づかなかったんですよー」
『棒読みで言われてもなあ、ええ? オイ』
雰囲気は穏やかなものの、兄の凄んだ声が少し怖かった。
帰ったら何をされるのか。
パシリならまだいいほう。
イタズラか関節技か……されたほうはたまったもんじゃない。
想像して体が思わず震える。
兄の言葉に、どもりながらも間髪いれず謝った。
兄は、気にしない様子だった。
『いや……別にいいけど、で? 今、どこにいる?』
「え、今? おおど……何で?」
『いやいや、ただ気になっただけ。……大通りでいいのか? 大通りのどこ?』
「……え、迎えに来てくれるの?」
『ああ、いいよ』
ふいに何度も何かを叩く音が、笑う兄の声と共に聞こえてきた。
兄はそれに対して、やめろと言う。
まさか。
「……誰か、いるの?」
『ん~? ああ、友達トモダチ。遊びに来てて今送るとこで、まあついでに? お前迎えようかなあって』
いつもであれば、わたしが知らなくとも名字なり名前なりを兄は言う。
口数も妙に多いような。
怪しい、と思う。
「あの、もしかして……く、黒沢さん、いる?」
『黒沢ァ? ……いないけど、どうした?』
「いや、あの……ええっと……」
『ブハ、もうだめ』
『おい、もうちょい静かにせえよ!』
ギャハハハハと大きく笑う声を諌める兄。
何だろう、何か違和感がある。
わからないけれど、その笑い声にひどく不快感を持った。
「……オニイサン?」
『は、はい?』
焦りをにじます、兄も兄で不愉快だ。
「ごめん、やっぱ迎えいらない」
『は?』
「お母さんには夜までには帰るよーって言ってて」
『え、ちょ、ま』
「じゃーね、バイバイ」
その後、何かを言おうとしている兄を無視して、ぶちりと切った。
珍しく兄は、何度もわたしに電話をする。
しつこく感じて、ついには携帯電話の電源も切る。
黒沢さんはいないと言っていたけれど、あれはいた様子だったみたいで。
「……うそつき」
怨むように、わたしはぽつりと呟いた。
○
3:43p.m.
兄に大通り(途中しか言ってないけれど、まるわかりだったようで癪だ)と言ってしまったことに、後悔。
どこ行こうとも、見つけられるのも時間の問題だろうと思う。
駅にも、行けないかも。
でも大通りにもいられない。
どうしようかなあと、頭の中で地図を描く。
友達が駄目だったら。
久しぶりに、いとこに会うのもいいかもしれない。
我ながらナイスアイディア!
なんて自画自賛したところで、連絡しようと思っても携帯電話は恐ろしくて電源を入れられない。
……。
いまどきあるのだろうか、公衆電話を探してみる。
あたりをうかがったところでないし、しばらく歩いてみてもない様子。
公衆電話って、もう貴重だ。
……あー、いや百貨店に確かあったはず。
あったかも?
行ってみようか。
○
04:01p.m.
公衆電話、発見。
思わず、おお!と感嘆をあげる。
本当にあったーって、ちょっと感動。
ただ。
いとこの電話番号わかんなくて、結局、携帯電話の電源入れなきゃなんないって、意味、ないよね。
わたしのばか。
公衆電話、探した意味ないじゃん。
しぶしぶ、電源を入れてみた。
兄、まりちゃん、それからアキラちゃんという友達が、電話やメールでいっぱいになってる。
兄とまりちゃんのメールは、今どこにいるか何をしているかと似たり寄ったりの内容だった。
他の友達のメール内容に疑問をもつ。
『黒沢サンが心配してる』
アキラちゃんは、何をどうしてそう、こんなメールを送ったのかな?
もしかして、友達みんな黒沢さんの味方、とか??
うーーーわーーー、そうだったらいーーーやーーー。
電話もメールも、申し訳ない気持ちになりながら、けれど返信も何もせず、電話帳にあるいとこの名前をわたしは探した。
電話をかける。
『はいはい、もしもしー?』
「かいちゃん?あのーわたしだけど」
『あ、わたしわたし詐欺は間に合ってますんでー、じゃあ』
「え、いや、あの」
『冗談だよ、じょーだん。わかってるよー珍しいねーどうしたん?』
「あの、今、ヒマ? 家行ってもいい?」
『んー甥がいてもいいならいいよん』
「やったーえっとねーたぶん1時間後には着くかも」
『へ? あんた今どこにいんの?』
「大通り近くの、百貨店」
『もしかして歩いてえ? バスかタクシー使いなよーそこはー』
「えー、うーん……そうするー」
『うんじゃあ、今からだと遅くても4時半?』
「たぶん? バスだったらそれより遅いかもしれないけど」
『あ、そっか。まあ、気長に待ってるよん』
電話を切ると、タイミングがいいのかわるいのか、着信音が鳴った。
相手が誰か確かめもせず(ばかだった)、思わずそのまま電話を受け取る。
「はい」
『やっとでたな』
「あ」
兄だと思い慌てて、そのまま電源を切ってしまった。
気づいた時には、時すでに遅し。
やばい。
今、電話をしても怒るだろうし、そのまま黙ってても怒るだろうし、何にせよ結局怒られることは確かだ。
うわあ、ぞっとする。
どうしようとしばらく、どうしても挙動不審になってしまう。
……お、お土産買って、機嫌をとろうかな!?
午後というからには、01:00p.m.~06:59?p.m.くらいまでかなあと思ったのですが、思ったより長くなってしまったため、一端ここで区切りとさせていただきます。
さて、次回は夜です。
獣はウサギちゃん(笑)を捕まえるために画策中。
どんどん遠退いているようですが……どうなることやら(^ω^)




