Fifth -雄吾's turn.
俊輝、うまく逃げてるか?
俺はなんとか振り切った。
そんなことを思いながら、雄吾は運転を止めていた。
猛吹雪に阻まれ、前に進めない。
暖房の出力を最大にし、温風に手をかざした。
「あったかいや……」
ふとそんな言葉が漏れた。
あったかい。
あの日も、寒いのにあったかかったっけ。
雄吾は、自販機のコーンポタージュが大好きだ。
家路の途中にその自販機があるから、よく買っていた。
何年か前の冬の日、今日みたいに雪が降りしきる日、雄吾は初めて俊輝と喋った。
「お前も、それ飲むんだ」
「うん……」
雄吾は、俊輝が両手で持つコーンポタージュを指差して言った。
ぎこちない2人。
無言のまま雄吾はコーンポタージュを飲んだ。
正直、鉢合わせしてしまったという心境だった。
俊輝は休み時間でもいつも一人でいたし、同じクラスだったが、プロフィールを何も知らなかった。
雄吾は缶の中身を飲み干すと、俊輝を一瞥した。
俊輝は雄吾をじっと見ていた。
雄吾は頭を掻いて、飲み口の裏にへばりついた粒コーンをどうにか舌で取ると、ゴミ箱に投げ捨てた。
そして、無言で立ち去るのも悪いと思い、雄吾は俊輝に告げた。
「冷めちゃうよ、せっかくあったかいのに」
「うん」
俊輝はそっと缶の蓋を開けた。
ほんの少し飲んで、口許から離す。
「お前、猫舌?」
雄吾は笑った。
つられるように俊輝ははにかんで、軽くうなずいた。
これが2人の最初のやりとりだ。
温風に当てている手を翻す。
すると、雄吾の目は涙を湛えた。
どうして俊輝を巻き込んだんだろうか?
俺、俊輝の人生、狂わせちゃったんだよな……。
次第に罪の意識が雄吾を苛む。
雄吾は暖房の出力を下げると、運転を再開した。