Second
雄吾はどんどん山の方へ除雪車を走らせる。
家や人気はほとんど無い。
同じ町内とはいえ、僕のあまり知らない地区だ。
幅員が狭くなるにつれ、僕の不安は増幅されていく。
雄吾は何も喋らず、運転に真剣だ。
すると突然、左へハンドルを切り、土手のような道を下ると、雄吾は除雪車を止めた。
「ってか離せよ」
気付けば、僕は雄吾の背中にしがみついていた。
「降りていいぜ。ここに来たかったんだ」
僕は太ももほどの高さの雪の中へ飛び降りた。
目の前には大型の倉庫が4つ、うち1つのシャッターが開いている。
除雪車の格納庫だとすぐに分かった。
雄吾は、ここから除雪車をパクってきたんだろう。
「一昨日さ、こんなのが落ちてたんだよ」
雄吾も除雪車から降り、ポケットから取り出した鍵を僕に見せた。
キーホルダーには『除雪シャッター1』とペンで記されている。
「それでここに来てみたらビンゴ! ってわけ」
雄吾はヘルメットのバイザーを上げた。
「捕まるよね……?」
ヘルメットを脱いだ僕は震えていた。
「バレたら捕まるよね?」
「だからこうやってヘルメットを……」
「馬鹿! 何でこんなことしたんだよ!」
「……白けてるな、俊輝は」
雄吾はため息をついてそう言った。
「バレるわけないじゃん。こんな山奥だぜ?」
「そんなの分からないだろ」
「いいから、ほら、俊輝も動かしてみろよ。楽しいぞ」
誘惑され迷いが生じる。
確かにここは山奥だ。人気もない。
けど、100%人が来ないとも言えないと思うけど……。
開いている格納庫には、もう一台除雪車がある。
確かに、こんなチャンスはもう二度とないかも……。
「……ちょっとだけなら」
雄吾は、にっと笑って、
「オッケー。早く早く!」
と手招きした。
僕は雪を踏みしめながら、一歩一歩近付いていく。
実は、憧れだった。
ショベルカーとかブルドーザーとか、大きい乗り物を動かしてみたかった。
僕は小柄だから、そういう願望も強いのかもしれない。
まるでロボットを動かすみたいにドキドキしたまま運転席に浅く腰掛けた。
雄吾がエンジンを点けると、眠っていた除雪車が息を吹き返した。
一通り運転の方法を教えてもらい、僕はギアを一速に入れアクセルを踏んだ。
太いタイヤが回り、チェーンがコンクリートを引っ掻く。
上下に跳ねながら進むのがちょっとカッコ悪いけど、その振動が快感だ。
ギアを二速に入れようと視線を下ろした時、雄吾が叫んだ。
「俊輝、前!」
はっとして前を見ると、雄吾が運転していた除雪車が横を向いて停められている。
僕は慌ててブレーキを踏んだが間に合わなかった。
派手な音を立てて衝突し、僕はハンドルに胸部を打ち付けて、苦しくて唸った。
ヘルメットの中で咳と荒ぐ呼吸がこだまする。
「大丈夫?」
慌てた雄吾が僕の背中をさすった。
「痛い……、けどすごく楽しい」