Eighth -雄吾's turn.
雄吾が走る旧道は、大正初期に既に開発を中断されていた。
元は谷底に小さな集落があって、そこと市街地を結ぶ道になるはずだった。
しかし不思議な事に、工事中、事故が多発した。
落石や土砂崩れがしばしば起こり、命を落とす者も後を絶たなかった。
祟りだ、と口々に噂された。
というのも、その集落に住んでいたのは、太古から呪術を継承している家系として一部には大変有名だった。
迷信だと言われていたが、実はその道路開発に集落の長が強く反対していて、それにもかかわらず強引に工事を行ったのだ。
開発半ばで工事は中止、未舗装の道が今でも残っている。
後に、幅員が極端に狭い上に凹凸が激しく、車両が立ち入ると危険なので、通行止めを意味するガードレールが設置された。
雄吾がぶつかっているのは、まさにそれである。
しかしそんな事はつゆ知らず、除雪車は強引にガードレールを乗り越えた。
道は急な下り坂に変わり、狂ったようにスピードが上がっていく。
路面はうねり、雄吾は姿勢を制御するだけで精一杯だった。
凄まじい吹雪で前後も左右も分からない。
スピードメーターの針は40と50の間を振れている。
ぞっとした雄吾はブレーキを踏む。
すぐに異変に気付いた。
減速、できない。
間違いなく雄吾の左足はブレーキを踏んでいるが、全く止まる気配が無い。
まるで見えない力に引っ張られるように。
差し迫る崖が雄吾を手招いているように。
2秒後、除雪車は大きく左に傾いた。
左側は谷底だ。
雄吾は悲鳴を上げ顔を伏せた。
除雪車は斜面を横転し始めた。
ふわり体が浮き、狭い運転席中に体が叩き付けられ激痛が走る。
何度も頭を打ち、雄吾の意識は朦朧としていた。
どこが痛いのかも分からない。
でも体は動かなくなっていく。
力が入らない。
除雪車が滑り落ちる斜面は、なだらかな雪から荒れた岩場に変わった。
突出した岩に当たって回転の方向が変化し、除雪車の部品が次々に取れていく。
ああ、俺死ぬんだ……。
俊輝、悪かったな……。
頭から流血し、雄吾は気を失った。
そしてもはや原形をとどめていない除雪車は、谷底の岩石へ突き刺さって、爆発した。
雄吾は二度と目を覚ますことは無かった。