花嫁の父…再び (番外編)
番外編は夏海の父親、倉田剛の目線です。
「お父さん、お母さん、長い間、お世話になりました。」
結婚式当日の朝、娘の夏海が頭を下げる。
俺は、またしても涙腺が崩壊した。
今日は娘の結婚式だ。
俺達夫婦には、二人の娘がいる。
下の子の夏海は、小さい頃はおとなしく、姉や隣の姉弟のあとを付いて回る感じだった。
小学生の頃には、上の子と違い、おしとやかな少女に成長した。
そんな姉妹の違いに、妻の洋子は首を傾げていた。
「同じように育てはずなのに、どうして姉妹でこうも違うのかしら。でも、夏海なら、大人になればすぐに、いい旦那さんが見つかるわね。」
そんな夏海だが、中学生の頃は、親しい友人が少なく、俺は少し心配だった。
しかし、高校生になると、親しい友人も出来たようで、徐々に明るくなっていく。
確か、上の子の春海が、冬樹君と付き合い始めたのは高校生の頃だったはずだが、夏海には高校生になっても、男の気配が全くしない。
「夏海に恋人はいないのかしら?春海は何か知ってる?」
「さ、さぁ…、知らない。…」
春海は何か隠している感じだったが…。
別に恋人なんていなくていいよ!
まだ、高校生なんだし。
俺はそう思っていた。
もしかして、夏海も冬樹君の事が好きなのでは?
そんな考えも、ちらりと浮かんだ。
「冬樹君は夏海と付き合ってると思ってた。」
妻の言葉に、
「冬樹君なら、春海でも夏海でもどっちでも嫁にくれてやるぞ。」
俺が強がってみせた時、姉妹の反応が、少しおかしかった事が気になった。
それから年月が経ち、春海が冬樹君と結婚しても、相変わらず男の気配がしない夏海。
この娘は、恋人を作る気がないのか?
異性には、興味がないのか?
あらぬ心配をした事もあったが、それならそれで、ずっと家にいればいいと、俺は思っていた。
その後も夏海は、友人達が結婚していき、三十の声が聞こえ始めてきても、まるで焦りを見せない。
こういう状況になってくると、普通の女性は焦ってくるはずなんだが…。
さすがに、俺も少し心配になってきたが、妻の心配はもっと凄かった。
休日なのに、何処かへ出掛けるわけでもない夏海。
そんな夏海に妻は、
「あんた、休日なのに一緒に出掛けるような人はいないの?」
と聞くが…。
「私だって、友達ぐらいはいるよ。」
と答える夏海。
母親が、何を心配しているのかすら、理解していない。
「そういう事じゃないの!恋人はいないのかって聞いてるの!」
「いないよ。」
休日の度に、同じような会話が二人の間で交わされていた。
そんな夏海にも、ようやく彼氏が出来たらしいと、妻から聞かされたのは、今から一年半ぐらい前だった。
とある日曜日、弁当を持って出掛けようとする夏海に…。
「お前、日曜日なのに弁当を持って、何処へ行くんだ?」
と聞く俺。
「べ、別にいいじゃん…。」
と答える夏海。
嫌な予感がした…。
「今日、夏海は何処へ行ったんだ?」
妻に聞くと…、
「今日はデートだって!あの娘にも、ようやく彼氏が出来たみたい!」
嬉しそうな妻だったが、俺は面白くない。
夏海は、ずっとこの家にいると思ってたのに…。
それから一年が過ぎた頃…。
「お父さんと、お母さんに会って欲しい人がいるんだけど…。」
そう切り出した夏海。
俺は思わず、天を仰いだ。
ついに、来たか…。
そして、結婚式当日の朝、夏海に呼ばれる。
「お父さん達、ちょっとここに座って!お決まりの挨拶するから!」
この時点で、俺の涙腺は崩壊寸前だった。
俺の表情を見た夏海は、必死に笑いを堪えている。
クソー、こんなはずじゃないのに!
「お父さん、お母さん、長い間、お世話になりました。」
そして、またもや涙腺崩壊。
横目で妻を見ると、またしても泣き笑いの複雑な顔だった。
数年前に、見た光景だった…。
その日の夜、冬樹君や春海と一緒に家に戻って来ると…。
「お父さんてば、式の間中ずっと泣いてるんだもん!正直、ちょっと引いちゃったよ、私!」
数年前、夏海にも言われた言葉で、春海に責められてしまった。
だから、その言葉は既に、聞いた事があるんだよ!
「何とでも言え…。」
「拗ねちゃったよ、お父さん。」
「実はね、春海の結婚式の時も、夏海に同じ事を言われてるのよ、お父さん。」
それは、言わなくてもいいんじゃないか、母さん…。
「そういえば、お父さん達に報告があったんだった!今度、私達、冬樹のお父さんと同居する事にしたから。」
「「はぁー?」」
重要な事をさらりと口にする春海に、俺達夫婦は開いた口が塞がらない。
「冬樹は、立花家の長男なんだし、そんなに驚く事じゃないでしょ?」
「マサばっかり、ズルい…。」
「『ズルい』って、何がよ?」
「俺だって、孫と一緒に暮らしたい…。」
「冬樹のお父さんは、今、一人で住んでるんだから。お父さん達は、我慢しなさいよ!すぐ隣なんだし。」
クソー、マサの奴…。
夏海達は、俺達と同居してくれないかなぁ…。
やっぱり、娘を持つ父親なんて、ホントつまらん!