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恋人の作り方

「あっ、夏海さん!」


「あぁ、佳奈ちゃんか。」


月曜日の昼、食事に行こうとしていた私は、後輩の松井佳奈子に声を掛けられた。


「今から、お昼休憩ですか?」


「そうだよ。」


「私もです。何処に食べに行くんですか?」


「面倒臭いから、社員食堂へ行こうかと。」


「私もそうしようかな。ご一緒しても、いいですか?」


「勿論、いいよ!」




彼女は、今年で入社二年目。


背の低い、可愛らしい女の子。


彼女が新人の頃、とある飲み会で一緒になって以来、私に懐いてくれている。


会社の部署は違うが、私はこの人懐っこい後輩を可愛がっている。


「仕事は結婚したら辞めますよ。」


そう公言してはばからない彼女。


しかし、仕事は真面目にしており、能力もある。


それに、上司や同僚の受けもいいらしい。


だから、結婚したら会社を辞めてしまうのは勿体ないと、私は思っている。




「佳奈ちゃんは、彼氏いるんだっけ?」


「いますよ。実は、同棲しようかという話もしてて。」


「結婚するの?」


「多分、このまま何も起こらなければ、結婚って事になると思いますけど。」


今まで佳奈ちゃんとは、こういう話をした事がなかった。


私が、こういう話にならないように、何となく避けていたというのもある。


昨日、散々、結婚を急かされてしまい、今日はこんな話をしてしまった。


「夏海さんは、結婚しないんですか?『仕事が命』とかですか?」


当然、そう聞かれる事は予想していた。


昨日の事もあり、感覚が少し麻痺していたのかも知れない。


「『仕事が命』ってわけじゃないけど…。相手もいないし、結婚なんてまだ考えられないかな…。」


「彼氏いないんですか!意外です!夏海さん、綺麗な人だから、当然、そういう人がいると思ってました。」


「ところが、全くモテないんだよ…。」


「何ですか、それ。イヤミですか?」


「そういうわけじゃないよ!結構、切実な悩みなんだけど…。」


「…?」


「彼氏って、どうやったら出来るの?」


「はぁ?今までの彼氏は、どうやって知り合ったんですか?」


「それが…、実は…、あんまり大きな声じゃ言えないんだけど…。彼氏がいた事がなくて…。」


「えっ…。冗談…ですよね?」


「ううん…、ホント…。」


「えー!」


「ちょ、声が大きい!」


「すいません…。理由…、聞いてもいいですか?」


「うん…。」


「男嫌いとか、男性恐怖症とかですか?」


「そういうわけじゃない…と思う…。」


「…。何か根が深い所に、原因がありそうですね…。」


「…。」


佳奈ちゃんは、そのまま考え込んでしまう。




「夏海さん、今夜、時間ありますか?」


「特に予定はないけど?」


「夏海さんに彼氏が出来ない原因を、二人で徹底究明しましょう!」


少しテンションが高くなった佳奈ちゃん。


「別にいいけど…。佳奈ちゃん、面白がってない?」


「ま、まさか!」


「…。」


私みたいな女は珍しいだろうから、気持ちは分からないでもないけど…。


「夏海さんみたいな人でも、彼氏が出来ない事ってあるんですね…。あっ!もしかして、夏海さん…。いえ、何でもないです…。」


佳奈ちゃんが何を言おうとしたか、私は分かってしまった。


彼女の想像は、間違っていない…。







その日の夜。


「今まで、男の人と知り合う機会とか、全くなかったんですか?」


「全くないって事もないけど…。高校、大学と女子校だったから…。」


これは、私の言い訳に過ぎない。


千絵や詩織は、大学生の時には彼氏がいたから。


「うちの会社も、男の人は少ないですから、出会いがないのは確かですけど…。」


「他の人達は、どうやって恋人と知り合うの?」


「それは、学生時代に見つけるとか…。」


「私は女子校だったからね…。」


「合コンで知り合うとか…。」


「合コンは元々好きじゃないし、トラウマ的なものもあって…。」


「うちの会社は確かに少ないですけど、独身の男性社員に声を掛けるとか…。」


「私みたいな年齢の女が、若い娘と張り合うのは、少しみっともなくない?」


「友達や知り合いに紹介して貰うとか…。」


「友達はみんな結婚しちゃってるからなぁ…。」


「あのー、夏海さん!」


佳奈ちゃんの顔色が少し変わった。


「な…に?」


恐る恐る、彼女の様子を伺う。


「本気で彼氏が欲しいと思ってます?」


「…。」


痛いところを突かれた…。


今までは、いつか出来るだろうと、気楽に考えていたのは事実。


そう思っている内に、三十歳の足音が聞こえて来てしまった。


「本人が、彼氏が欲しいと思ってなければ、出来るわけがないじゃないですか!」


「…。」


年下の彼女に説教され、返す言葉もない。


「まずは、彼氏が欲しいと思うところから始めないと駄目ですね、夏海さんの場合。」


「最近は、少し思ってるよ…。結婚した人達を見ると、みんな幸せそうだし…。」


「あとは、些細な出会いを大切にする事ですね。」


「『些細な出会い』って?」


「例えば、友達の友達とか、ちょっとした知り合いとか、会話をする人とかの事です。男女問わず。」


「男女問わず?」


「そういった些細な繋がりから、運命の相手にたどり着く事もあるはずなんです。」


「運命の相手に繋がる…、か…。」


私には、繋がってると思っていた赤い糸が、途中で切れていたという経験があるが…。





「うーん…、この際、アイツでもいいか…。」


「…?」


何事か呟いた佳奈ちゃん。


「夏海さん、金曜日の夜、予定ありますか?」


「…?いつも夜は暇だけど、何で?」


「私…、夏海さんに、一人だけ紹介出来る奴がいるんですけど…。」


「えっ…。」


「顔の造りはそんなに悪くないと思うんですが…、何だかパッとしない奴で…。」


「ちょっと待って!急に言われても、心の準備が…。」


「だから、些細な出会いを大事にしましょうよ。そいつと付き合えって、言ってるわけじゃないんですから。」


「…。」


「ちょっと待ってて下さいね。」


そう言った佳奈ちゃんは、携帯を取出し、どこかへ掛け始める。




『もしもし、春人?彼女、出来た?』


『………。………。』


『じゃあ、金曜の夜は、勿論、暇だよね?』


『………。………。』


『あんたの用事なんて、大した事じゃないんだから、後にしなさいよ!』


『…………!』


『いいのかなぁ、そんな事、言って。あんたに勿体ないような、綺麗な人を紹介出来るんだけどなぁ。』


『…………。』


『そんな風に強がってると、一生、独身だよ!』


『………!』


『とにかく、騙されたと思って、私の厚意を受けておきなさいよ!絶対、後悔しないから。』


『………!………。…?』


『後から連絡する。絶対、バックレないでよ!そんな事したら、殺すからね!』


『…………!』


『社会的に抹殺するって意味よ!』


『………!………!』


『そうだよ!最初から素直に言えばいいのに。』


『…………!』


『私はいつでも素直ですー!』


『………。………。』


『うん、またね!場所が決まったら連絡する。だから、首を長ーくして待っててね!』


『………!』




「…。」


「まったく、素直じゃないんだから。」


「仲がいいんだね…、その彼と…。」


「小さい頃からの、腐れ縁ってやつです。」


「幼なじみなの?」


「まぁ、そんなところです。」


「佳奈ちゃん達は、お互いの事が好きだったりしないの?」


「まさかー!そんなわけないじゃないですか!幼なじみが恋人になるなんて、都市伝説か何かですよ。」


「『都市伝説』って…。」


うちのお姉ちゃんは、幼なじみと結婚したんだけど…。


「あんまり期待しないで下さいね。本当にパッとしない奴ですから。」


「ハハハ…。」


酷い言われようだな、その彼も…。


「金曜日の夜ですから、忘れないで下さいよ。まさか、夏海さんがバックレたりする事はないですよね?」


「大丈夫…です…。」


成り行き上、おかしな事になってしまった。


私は、妙な胸騒ぎがして仕方がなかった。


佳奈ちゃんとその彼が、幼なじみだという事に…。








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