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寒い冬の日

いつもより遅く起きた日曜日の朝、遅めの朝食を食べていた私。


「あんた、今日は家にいるの?」


母が聞いてきた。


「午後から、千絵と詩織で遊びに行くけど。何で?」


「一緒に出掛けるのは、彼氏じゃないの?」


「うん、違うよ。彼氏はいないもん。」


「はぁ…。春海は、今のあんたの歳の頃には、結婚して子供だっていたのよ!千絵ちゃんと詩織ちゃんだって、結婚してるんでしょ?」


既に嫁に行き、家を出た姉や友人達と比較して、溜息をつく母。


「そうだけど…。お姉ちゃん達と、私は違うの!」


私も、行き遅れを心配されるような年齢になってしまったのだろうか?


「誰か、いい人はいないの?」


「うーん、今のところいないなぁ。」


「そんなに、のんびり構えていられる歳じゃないでしょ!より好みし過ぎてるんじゃないの?」


「別に、より好みなんてしてないよ。いい人は、中々見つからないものなんだよ。」


「とにかく、私は夏海が恋人を連れて来るのを待ってるの!せめて、三十歳までには結婚してよ!」


「そのうち連れて来るから大丈夫だよ。」


特に、アテなどないのだが…。


「『そのうち』って…。子供の頃は、夏海より春海の方が心配だったのに…。どうして、こうなっちゃったのかしら?」




あれから、もう五年が過ぎた。


既に、アイツの事は引きずっていない。


しかし、私に、春がやって来る気配は全くない。


原因は、何となく分かってはいるが…。


二十八歳になってしまった私だが、一向に訪れる気配のない春を、特に気にしてはいない。


「うー、寒い!コタツでミカンでも食べるか。」


『このままでいいのか?』と、思わないでもないが…。







その日の午後。


千絵達と待ち合わせをしていた駅前のカフェに、一足先に着いた私。


少しだけ昔を思い出しながら、彼女達が来るのを待っていた。


「おーす、夏海!元気だった?」


相変わらず、テンションの高い千絵が、まずやって来た。


「とりあえず、体だけは元気だよ。」


「詩織はまだ?」


「もうすぐ来るんじゃない?」




「夏海、彼氏は出来た?」


「それが、まだ…。」


「より好みし過ぎなんじゃないの?誰かと比べちゃうとか。」


「そんなつもりは、全くないんだけど…。それより、出会いが全くない事の方が、私的には問題だと思うんだけど…。」


「夏海の会社って、女性が多いんだっけ?」


「そうなんだよ。だからね…。」


「でも、彼氏がいる子もいるでしょ?そういう子達に、誰か紹介して貰えば?」


「まぁ、そうなんだけどね…。それより、千絵の結婚生活はどうよ?」


話題を変えようとした私。


二年前に、千絵は結婚している。


前に彼女と会った時は、散々ノロケられて、閉口した。


「まだまだラブラブだよ!結婚はいいよー!」


「あぁそう…。」


聞くんじゃなかった…。




「ごめん、遅くなっちゃって!出掛けに子供がグズっちゃったの。」


千絵のノロケ話にうんざりし始めた頃、遅れて詩織が来た。


ん?もしかして…。


「詩織もすっかりお母さんですなぁ。」


おどけてみせる千絵。


『お母さん』と言われたのが恥ずかしかったのか、詩織は少し顔を赤くする。


詩織は大学卒業後、すぐに結婚した。


彼女の息子は、確か三歳になったところだったか?


久し振りに詩織に会ったが、私は彼女の体型の変化が気になって…。


「詩織、もしかして…、妊娠してる?お腹がふっくらしてるような…。」


「さすが、夏海ちゃん!気付くのが早いね。今、五ヶ月目なの。」


「…。」


詩織が、『お母さん』って事も、まだピンとこないのに、二人目とは…。


久し振りに会った私の親友達。


学生時代と変わりが無いところを残しつつ、彼女達は大きく変化をしている。


あの日、前に進もうと決意したはずの私だけは、何の変化もなく、ただ年齢だけを重ねていた。




「夏海ちゃんは、結婚しないの?」


「結婚どころか、彼氏すらいなくて…。」


「詩織も、夏海に何か言ってやってよ!この娘ったら、昔と少しも変わってないんだから!」


「夏海ちゃんは、理想が高過ぎるとか?」


詩織まで、千絵や母と同じような事を言う。


私は、特に理想が高いわけでも、誰かと比べてしまうわけでもない。


どうやったら彼氏が出来るか、よく分からないんだよ、これが…。







親友達と別れ、家にかえると…。


「おかえり、夏海!デートだったの?」


姉の春海がいた。


「違うよ!友達と会ってたの。お姉ちゃん、一人?」


「旦那と娘は、隣の家にいるよ。」


「いいの?ほっといても。」


「平気、平気!お義父さんが面倒見てくれてるから。今、うちのお父さんも、早く孫に会いたい一心で、隣に行ったところ。あの人達は、孫の面倒を見るのが生き甲斐だから。」


「『母親』って、そんな適当でいいのかなぁ…。」


「失礼ね!いつもは、ちゃんとやってるよ!もうすぐお父さんが帰って来ると思うけど、そうしたら、宴会が始まるんじゃない?」


「またー?お姉ちゃん達が実家に来る度に、いつもそうなるじゃん!」


「別にいいじゃん。」


「…。秋姉ちゃんは?」


「来てないよ。そう簡単に帰って来れる場所に、住んでないからね。」


「確かに…。」




「夏海は、まだ彼氏がいないの?」


「いません!」


「理想が高過ぎるんじゃないの?」


「…!だから、そんな事ないって!」


「何を怒ってるのよ。」


「別に怒ってません!」


今日は一体、何なの?


会う人みんな、同じ事を言うんだから…。




「こんばんは!」


「おーい、母さん!マサ達も来たぞ!」


お姉ちゃんの予想通り、お父さんが、隣に住んでいるお姉ちゃんの義父と、その息子、孫を連れて帰って来た。


「久し振りだね、冬樹!」


「何だ、夏海。お前、まだ実家にいるのかよ。結婚しないのか?」


「うるさい!余計なお世話!」


「そんなに怒る事ないだろ。その歳で、ヒステリーはみっともないぞ。」


「…!コ・ロ・ス…。」








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