第6話 桶の聖水ッ?
『もう大丈夫よエノ。なんか頭の中がスッキリしたわっ!』
ロッテは僕の頭の上をクルクル元気に飛び回っている。
『ヨダレは垂らさないように気を付けるね! えへへ〜』
さっきまでロッテの下に置いてあった桶の中身がタプタプと揺れて煌めいている。
「妖精さんは大事無いようだな少年。すまない自己紹介が遅れた。私はレイリーズ・コット。皆は【鋼の錬筋術師】のアイアンと呼ぶがね」
【鋼の錬筋術師】っ⁉ 日本語で読まないで下さいねッ‼ 色んな所から怒られそうですっ!
「僕の方こそ、助けて頂いたのに名乗らずで! 榎田……エノと呼んでください!」
「あたしはロッテだよ~‼」
「エノにロッテ。良い名だ。それでは私の事もアイアンと呼んでくれたまえ」
アイアンさんは柔和な笑みを浮かべてゴツい手を差し出してきた。めっちゃ良い人だっ! 僕もそれに応じ、手を差し伸べて握りあった。
※※※
僕とロッテは応接室に案内され、革張りのソファに腰掛けている。
「どうぞ。CFM製法の特濃プロテインです」
「あ、ありがとうございます……」
胸の部分がはち切れそうなメイド服姿のマッチョマンが、丁寧に粘度の高そうな液体の注がれたマグカップを置いて退室していった。ロッテは両腕で抱える様にして、ンクンクと飲んでいる。
カップに口を付け優雅な仕草で特濃プロテインを飲み干したアイアンさんは、その優しい眼差しを僕に向けた。
「エノ、君は悩んでいるのだろう?」
「悩み……ですか」
確かに僕は悩んでいる。このマッチョだらけの珍妙な世界に!
「分かるよ。私もそうだったからな。君はハードゲイナーなのだろう?」
「ハ、ハードゲイ……?」
あの一世を風靡したコンビ芸人HGさん⁉
「そう。ハードゲイナーだ。辛かったろう。周囲に打ち明ける事すら困難なのだからな」
アイアンさんは悲痛な表情だ。確かに、ハードゲイである事を公表するには相当な勇気が必要だ!
「ひと目見て分かったよ。だから必ず君はここに来ると確信できたのだ。しかし、それは君の大きな素質でもあるのだよ。磨けば必ず輝く。君はダイヤモンドの原石なのだ!」
「僕が! ダイヤモンドの原石……ッ!」
芸人の道っ! それは確かに考えていなかった! そろそろ僕も進路を定めなければならない年齢ッ! なれるのか? 立派なゲイ人にッ‼
「エノ、共に歩もうではないか。ゆっくりでも構わない。磨き、その身を誰よりも輝かせるのだ!」
「はいッ‼ 宜しくお願いします。アイアンさんッ‼」
僕の心が暑く燃え始めた! この惑星の大勢のマッチョマンの心と共鳴するかの如く!
『ハードゲイナーって筋肉が付きにくい人の事なんだけど……』
「なんか言った? ロッテ」
『ううん? なんでもないよっ』




