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第22話 遥か遠く
数多の肉体同士の凄まじい激突により館と周囲の森は尽く破壊され、辺り一帯は荒野と化してしまっていた。
赤い巨躯の速筋大猩兎。残された森から地響きを伴ってその姿を現した。未だ陣を崩さず臨戦態勢の男達を前にして悠然と佇んでいる。
吹き荒ぶ風が砂塵を舞い上げ、喉と目を突き刺す。
荒野が静まり返った。荒れ狂う自然の猛威そのものを体現したその威風が、仲間の断末魔を欠片一つ残さず捕食したかのように。
「デカい……な……」
見上げるアイアンさんの顔から汗が滴り落ち、その肉体から白亜の湯気が立ち昇る。
「下がれ鋼の」
「ッ! しかし陛下……」
「二度は言わぬ」
「ハッ……」
皇帝ジェラートが前に出た。
「十年ぶりだな。赤熱の大猩兎。貴様は覚えてなど居らぬだろうが、私は一秒たりとも忘れはしなかったのだぞ」
語り掛ける皇帝の背中は、青い焔を冷たく燃え上がらせる破壊の神を思わせた。
「さあ、闘ろう。先帝の無念、今こそ晴らさせてもらう」
皇帝ジェラートは腰を落として構える。発せられるその覇気に、誰もが息を呑んだ。
しかし赤熱の大猩兎は一顧だにせず、皇帝を横切った。
そして僕の眼の前で立ち止まり
『ブウォオオォーーーーーーーーーーン』
耳を劈く雄叫びを上げると、地響きと共に森の奥に消えて行った。




