第13話 青と赤と
両手に持ったキャンディを見つめる。
ツヤツヤと輝く青い飴と赤い飴。よくある駄菓子の人工的な色味。
僕はその二つを同時に口に含んだ。
安っぽい合成甘味料の甘み。懐かしい思い出を伴って舌先に絡み付く。
「正一兄さん……」
数分先に産まれただけなのに、何故か僕よりずっと大人びていた。僕とそっくりなヒョロガリメガネ。透けるような白髪に赤い瞳。病院を抜け出して、コッソリ買った二つの飴。一緒に舐めようって言ったのに。赤い飴はその手から転がり落ちた。
涙が溢れ、頬を伝って落ちていく。
ロッテが、アイアンさんが、マリアさんが、愉快なマッチョさん達が、流れる銀河のような光の粒子に変化して行く。その顔は皆、笑顔に溢れている。祝福するかのように。満足したかのように。
いつの間にか、空に浮かぶ円形の地面に僕は立っていた。目の前には枠の無い全身鏡が浮かんでいる。映っているのは白髪に赤い瞳の正一兄さん。少しずつ白髪は黒髪に、赤い瞳は黒い瞳に変わって行く。
「俊一君だね」
黒縁メガネのスリムな男性が鏡の横に現れた。
「はい。俊一です」
「野暮かもしれないが……説明しても構わないかな?」
「はい……お願いします」
「この世界は【青い惑星オンライン】を元に創ったフルダイブ型VR医療システム。その残骸と言った方が良いかもしれないな」
「兄が被験者となっていたシステムですよね」
「その通り。そして正一君の意志……魂とでも言うべき存在が支配してしまった世界だ。彼の望んでいた事、やってみたかった事、心残り。それがこの世界を創り変えて現れていたんだ」
僕達はひんやりと冷たい床に座る。
「兄は変な漫画やゲームが好きでしたからね」
「そうだったな。マッチョ同士の格闘ゲームとか、妙なポエムばかり表示されるレースゲームとかだね」
クスクスと笑いあった。
「この世界では私も大変だったんだぞ? 彼の思うキャラクターを演じないと、私自身の存在すら揺らぎかねなかったからな」
スーツの男性が空を見上げた。光の粒子がキラキラと舞っている。
「医療システムを元に戻したかったんですか?」
「いや、このまま消えていくのを眺めるとするよ。私は縛られた彼の魂を救いたかっただけだからね」
「ありがとうございます」
「……正直なところ、なぜ君がこの世界で正一君の姿になって現れたのか、そして君が元の世界に戻れるのかも、私には分からないんだ。すまない」
「いえ、きっと大丈夫です」
「そうか、君がそう言うのなら、そうなのだろう。また、会えることを楽しみにしているよ。俊一君」
「この世界は……きっと、僕を……」
やがて溢れ出る涙と光が混ざり合い、全てを覆い尽くして何も見えなくなってしまった。
※※※
暗い部屋の中でディスプレイが光を放っている。黒髪の少年が机に突っ伏して、すうすうと寝息をたてている。その顔は満足げに微笑んで見えた。
――――――
正一『俊一。楽しかったよ! ありがとなっ! またなっ‼』
正一がログアウトしました。
――――――
輝くディスプレイの中。チャット欄はその動きを止めて、ビキニアーマーの女性が森の中に佇んでいる。その肩には緑髪の妖精がちょこんと腰掛けて、羽をパタパタさせていた。
スヤスヤと眠る少年の隣で、青い飴と赤い飴が仲良く寄り添い合っている。
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。楽しんで頂けたでしょうか?このエピソードで本編は完結となります。この先はエノが飴を一つしか食べなかった世界線のifストーリーで連載を継続します。良ければブックマーク、コメント、評価等、お気軽にお願いいたします!!




