第4章:記憶の痕跡
1
透と蒼は、記憶を見続けた。
モニターに映し出される、透と美月の3年間。
改竄された記憶と、本当の記憶を、交互に再生していく。
蒼は静かに記録を取り、透は黙って画面を見つめた。
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**【記憶データ: 2019年9月】**
**改竄版:**
透と美月は海辺のカフェにいた。
夕日が2人を照らしている。
美月は透の手を握った。
「ずっと一緒にいようね」
透は微笑んだ。
「ああ。約束する」
2人はキスをした。
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**元データ:**
透と美月は駅前のファミレスにいた。
美月は透に尋ねた。
「ねえ、私たち…付き合ってるの?」
透は曖昧に答えた。
「…まあ、そうなるのかな」
美月は少し寂しそうに笑った。
「そっか」
透はスマートフォンを見ていた。
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透は息を呑んだ。
「…俺、ひどいな」
蒼は画面を見つめたまま答えた。
「そうですね。あなたは彼女を、大切にしていなかった」
透は拳を握った。
「でも、これが本当の俺なんですね」
蒼は透を見た。
「続けますか?」
透は頷いた。
「…お願いします」
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### 2
**【記憶データ: 2020年3月】**
**改竄版:**
透の母親が入院した。
美月は透の隣で、ずっと付き添っていた。
「大丈夫。私がいるから」
透は美月を抱きしめた。
「ありがとう。君がいてくれて、本当に良かった」
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**元データ:**
透の母親が入院した。
透は一人で病院にいた。
美月に電話をかけた。
「今、病院なんだけど…来れる?」
美月の声は困惑していた。
「ごめん、今日バイトで…明日なら」
透は溜息をついた。
「…いい。大丈夫」
電話を切った。
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透は目を閉じた。
「俺、美月さんを責めてたのか…」
「そうですね。でも、彼女も彼女で、あなたを優先していなかった」
蒼は画面を止めた。
「柊さん。あなたと美月さんの関係は、決して"完璧"ではなかった」
透は蒼を見た。
「…それでも、俺は彼女を愛していたんでしょうか?」
蒼は少しだけ考えた。
「それは、これから見る記憶でわかるでしょう」
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### 3
**【記憶データ: 2021年7月】**
**改竄版:**
透と美月は遊園地にいた。
観覧車の頂上で、透は美月にプロポーズした。
「結婚しよう」
美月は涙を流した。
「うん!」
2人は抱き合った。
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**元データ:**
透と美月はアパートにいた。
美月は透に尋ねた。
「ねえ、私たち…このままでいいの?」
透は曖昧に答えた。
「…どういう意味?」
「結婚とか、考えてる?」
透は黙った。
美月は溜息をついた。
「やっぱり、考えてないんだ」
透は何も言わなかった。
美月は立ち上がった。
「…帰る」
透は引き止めなかった。
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透は頭を抱えた。
「俺、最低だ…」
蒼は静かに答えた。
「あなたは彼女を愛していなかったわけではない。ただ、愛し方がわからなかった」
透は蒼を見た。
「…どういう意味ですか?」
「あなたは母親の介護に追われ、仕事も辞めた。余裕がなかったんです。美月さんを大切にしたくても、できなかった」
蒼は画面を見た。
「それが、あなたの真実です」
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### 4
**【記憶データ: 2022年5月】**
**改竄版:**
透の母親が亡くなった。
葬儀の後、美月は透を抱きしめた。
「泣いていいんだよ」
透は美月の胸で泣いた。
美月は優しく背中を撫でた。
「私がいるから。大丈夫」
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**元データ:**
透の母親が亡くなった。
葬儀の後、透は一人でアパートにいた。
美月に電話をかけた。
「…母さんが、死んだ」
美月は静かに答えた。
「…そう。大丈夫?」
「わからない」
透の声は空っぽだった。
「今から、行ってもいい?」
「…ごめん。一人にさせて」
透は電話を切った。
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透は息を呑んだ。
「…俺、美月さんを拒絶してたのか」
蒼は頷いた。
「あなたは彼女を頼らなかった。一人で抱え込んだ」
透は拳を握った。
「なんで…なんで俺は、そんなことを」
「わかりませんよ」
蒼は透を見た。
「でも、あなたはそういう人間だった。人を頼れない、弱さを見せられない。そういう人間だった」
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### 5
**【記憶データ: 2022年8月】**
**改竄版:**
透と美月は最後の夜を過ごしていた。
「記憶を売るしかないんだ」
透は悲しそうに言った。
美月は涙を流した。
「わかってる。でも、辛い」
透は美月を抱きしめた。
「ごめん。でも、これしか方法がないんだ」
美月は頷いた。
「…わかった。でも、約束して。いつか、必ず記憶を買い戻して」
透は頷いた。
「約束する」
2人は最後のキスをした。
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**元データ:**
透と美月はアパートにいた。
美月は透に言った。
「記憶を売るって、本気なの?」
透は無表情で答えた。
「ああ。800万で売れる」
美月は信じられないという顔をした。
「…私との記憶を?」
「そうだ」
「なんで? 他に方法があるでしょ!」
透は冷たく答えた。
「ない。これが一番手っ取り早い」
美月は涙を流した。
「…私のこと、愛してないの?」
透は黙った。
美月は叫んだ。
「答えてよ!」
透はため息をついた。
「…愛してるよ。でも、それだけじゃどうにもならない」
美月は泣き崩れた。
透は何も言わなかった。
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画面が暗転した。
透は呆然としていた。
「…これが、最後の記憶」
蒼は頷いた。
「そうです。これがあなたが売った記憶の、本当の姿です」
透は顔を覆った。
「俺、最低だ…」
蒼は立ち上がった。
「柊さん。これが真実です」
透は蒼を見た。
「あなたは美月さんを愛していた。でも、愛し方を知らなかった。そして、最後には彼女を傷つけて、記憶を売った」
蒼は透の肩に手を置いた。
「それが、あなたという人間です」
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### 6
透は施設を出た。
外は夜だった。
透は夜空を見上げた。
頭の中が、混乱していた。
自分は、美月を愛していなかったのか?
いや、愛していた。
でも、その愛は歪んでいた。
透は歩き出した。
美月に会わなければ。
本当のことを、話さなければ。
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### 7
透は美月のアパートに向かった。
インターホンを押す。
「…透くん?」
美月の声がした。
「美月さん。話があります」
しばらく沈黙があった。
「…わかった。上がって」
透は部屋に入った。
美月はソファに座っていた。
透は向かい合って座った。
「美月さん。俺、記憶を見ました」
美月は顔を上げた。
「…本当の記憶を?」
「はい」
透は美月を見た。
「俺、最低でした。あなたを大切にしなかった。傷つけた。そして、記憶を売った」
美月は目を伏せた。
「…知ってたよ」
透は息を呑んだ。
「え?」
「私、全部覚えてる。あなたが私を愛してくれなかったこと。冷たくされたこと。最後に記憶を売られたこと」
美月は涙を流した。
「全部、覚えてる」
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### 8
透は何も言えなかった。
美月は続けた。
「でもね、透くん。私はあなたを責めてない」
「…どうして?」
「だって、あなたは必死だったから。お母さんを助けたくて、でも間に合わなくて。借金だけが残って」
美月は透を見た。
「あなたは壊れてたの。だから、私を愛せなかった」
透は涙が溢れそうになった。
「…ごめんなさい」
「謝らないで」
美月は首を横に振った。
「私はね、透くん。あなたが記憶を売ってくれて、良かったと思ってる」
透は目を見開いた。
「え?」
「だって、あなたは記憶を売って、お母さんの借金を返せた。それで良かった」
美月は微笑んだ。
「私との記憶なんて、そのための代償でいいの」
透は首を横に振った。
「そんなこと…」
「いいの」
美月は立ち上がった。
「透くん。あなたは今、空っぽになった。過去のあなたは、もういない」
彼女は透の手を取った。
「だから、新しく始めよう。今度こそ、ちゃんと」
透は美月を見つめた。
そして、彼女を抱きしめた。
「…ありがとう」
美月は透の背中に手を回した。
「こちらこそ」
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### 9
その夜、透は一人でアパートに戻った。
ベッドに横になり、天井を見つめた。
本当の記憶を知った。
自分がどんな人間だったか、知った。
でも、不思議なことに、胸が軽くなった気がした。
過去の自分を知ることで、今の自分を受け入れられた。
透は目を閉じた。
そして、静かに呟いた。
「美月さん。今度こそ、ちゃんと愛します」
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### 10
翌日、透は神代蒼に会った。
「記憶を見て、どうでしたか?」
蒼が尋ねた。
「…辛かったです。でも、知れて良かった」
透は蒼を見た。
「ありがとうございました」
蒼は微笑んだ。
「どういたしまして」
透は立ち上がろうとした。
その時、蒼が言った。
「柊さん。一つ、まだ言ってないことがあります」
透は振り向いた。
「…何ですか?」
蒼は真剣な顔をした。
「あなたが売った記憶…改竄したのは、あなた自身です」
透は固まった。
「…え?」
「あなたは記憶を売る前に、自分で改竄した。美月さんとの記憶を"美しく"して、高く売った」
透は息が止まりそうになった。
「そんな…」
「記録に残っています。あなたは違法な記憶改竄業者に依頼し、記憶を美化した」
蒼は透を見つめた。
「つまり、あなたは意図的に"嘘の記憶"を作り、それを売ったんです」
透は言葉を失った。
蒼は続けた。
「なぜそんなことをしたのか。それは、次の記憶を見ればわかります」
蒼はモニターを指差した。
「最後の記憶です。あなたが売らなかった、たった一つの記憶」
透は震えた。
「…何の記憶ですか?」
蒼は答えた。
「記憶を改竄した理由。そして、あなたと美月さんの"本当の関係"」




