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祝・スキル『勇者』!→「ハズレ乙」→数年後、俺「魔王の首、取ってきたぞ」周り「!?」



 ――トラックに轢かれて転生したぞ!


 気がつけばファンタジー世界。

 ブレイブハート家の長男レオとして生を受けていた。


 そして五歳の誕生日、俺は町の教会でスキル鑑定を受ける。


「さあレオ坊。水晶に手を」


 神父様の言葉に、俺は水晶に触れる。


 頼む、チート能力!


 水晶が光を放ち、文字が浮かび上がる。


 ――『勇者』


「やった!」


 俺は思わずガッツポーズを決めた。


 勇者!

 物語の主人公の代名詞!


 俺は興奮気味に両親を振り返った。

 しかし、両親の顔はなぜか曇っている。


「勇者か」

「またハズレスキルを引いたもんじゃな」


 え、ハズレ?

 なんで?


 家に帰ると、父さんが重い口を開いた。


「レオ。勇者っていうのはただ人よりちょっと勇ましいっていうだけの能力で」

「そうよ。魔物にも臆さず立ち向かえるけれどそれだけなの。特別な力はないのよ」


 母さんも悲しそうに俺の頭を撫でる。


(そんな馬鹿な! あの勇者だぞ!? 剣も魔法も極めるオールラウンダー! 最強の能力だろう!)


 俺は心の中で叫んだが、この世界の常識は違った。


 『勇者』スキルは「勇ましいだけ」の精神作用スキル。

 それがこの世界の共通認識だった。



◇ ◇ ◇ ◇



 それから十数年。

 周囲の評価を覆そうと、俺は剣と魔法の訓練に明け暮れた。


 その結果、剣術は騎士団トップクラス。

 魔術も宮廷魔術師に引けを取らない。回復魔法もそこそこ使える。


 だが、どれも「一番」にはなれなかった。


 剣を取れば、同期に『剣聖』スキルを持つアスカ・ブレードがいた。

 魔法を唱えれば、同じく同期の『大賢者』ノア・ワイズマンがいた。

 回復魔法は、幼馴染の『聖女』セレス・ピュアライトの足元にも及ばない。


 剣術は王都で2位。魔術も2位。回復魔法も2位。

 地味で中途半端な結果だった。


「ねえノア。レオのやつおかしくない?」


 訓練場で木剣を振るう俺を、アスカが遠巻きに見ながら言った。


「スキルは『勇者』。ただ勇ましいだけのはず。なのに私の剣に食らいついてくる。あいつなんであんなに強いの?」

「同感だね。僕の魔法理論に一定の理解を示すし実践での応用力が高い。きっと僕たちの見ていないところで途方もない努力をしているに違いない」


 二人の会話が風に乗って聞こえてくる。


 努力、か。

 まあ、間違ってはいない。


 俺は誰にも言っていないが、夜な夜な森で格上の魔物と実戦訓練を積んでいた。

 普通なら足がすくむ相手に、なぜか俺は臆することがない。

 むしろ、強敵であればあるほど心が燃え上がる。


 この『勇気』こそが俺を強くしていると、この時の俺はまだ気づいていない。



◇ ◇ ◇ ◇



 そんなある日、世界を揺るがす報せが届いた。


 魔物がはびこる『死の領域』から、強大な魔物が軍勢を率いて現れた。

 隣町は一撃で跡形もなく消し飛んだらしい。


 その話を聞いた瞬間、俺は直感した。


(魔王だ!)


 前世の知識か、『勇者』スキルが告げているのか。

 俺は迷わず討伐に向かう準備を始めた。


「やめなさいレオ!」


 両親は俺を止める。


「王都で一番強いわけじゃないお前に何ができる! 死にに行くだけだぞ!」

「そうよ!アスカさんやノアさんだって尻込みしているのに!」


 両親の言う通り、王都は絶望的な雰囲気に包まれていた。

 規格外の敵を前に、『剣聖』も『大賢者』も『聖女』も、為す術なく立ち尽くした。


 だが、俺はまっすぐに二人を見つめ返して言った。


「勇者の俺が立ち向かわずに誰が立ち向かうんだ。あの魔物を倒せるのは俺しかいない。なぜかそんな気がしてならないんだ」


 俺の言葉に、両親は息を呑む。

 その足で、俺はアスカとノア、そしてセレスの元へ向かった。


「行くぞ。俺が道を切り開く」


「待て!なぜだレオ。なぜお前は絶望的な相手に臆さず立ち向かえるんだ?」


 俺は振り返り、ニヤリと笑った。


「俺のスキルは『勇者』だからな。ただ勇ましいだけが取り柄なんだよ」


 その言葉に、三人は何かを打たれたように目を見開いた。

 彼らの瞳に決意の光が宿る。


 こうして俺たちは、誰もが不可能だと言う最強の魔物の討伐に向かった。


◇ ◇ ◇ ◇


 誰もが俺たちの生還を絶望視していた頃。

 俺たちは魔王軍のど真ん中を突っ切っていた。


 ただひたすら中心に向かって一直線に進む。

 アスカが俺の右を、ノアが左を固め、セレスが後方から支援する。

 不思議と恐怖はなかった。


 そして、軍勢の奥で禍々しいオーラを放つ魔王と対峙した。

 仲間たちに雑魚の相手を任せ、俺は魔王との一騎打ちに臨む。


 ――数日後。


 俺は魔王の首をぶら下げて王都に帰還した。

 出迎えた人々は俺の姿を見て言葉を失い、やがて歓喜の渦に包まれた。


 この日を境に、『勇者』は最強のスキルとして認知されることになった。

 そして、この世界には新たな格言が生まれる。


 【勇気とは、最強の能力である】





『勇者』とは物語の主役を示す輝かしい称号。

けれど、その文字を紐解けば意味はただ一つ。「勇ましい者」


剣聖の絶技も、大賢者の深淵なる知識も、それだけでは世界を救うことはできない。

歴史を動かした数多の偉人たちが魂に共通して宿した資質。

それこそが、『勇気』なのだ。


時に愚直と笑われ、時に蛮勇と蔑まれるその一歩。

だが、誰もが歩みを止めた暗闇を最初に照らすのは、いつだってその一歩に他ならない。


勇ましいだけ、結構じゃないか。

その魂の輝きが、やがて世界を塗り替えるのだから。

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