開花しなかった才能1
授業が終われば放課後。
自由だ。
とはいってもキズクの寮はアカデミー構内にある。
近くに町もあるけれど、遊びに行こうとでも思わない限りアカデミーから出ることはない。
加えてキズクには放課後にやることがある。
「おっ、来たな」
授業後のショートホームルームを終えたキズクは真っ直ぐに第二テイマー部に向かった。
「みんな、もう来ているぞ」
集まってくつろげるリビングのようになっている部室には人が集まっている。
今日は第二テイマー部の活動日であった。
本格的に今学期の活動を始める日であり、新入部員となる一年生と二、三年生との顔合わせの日でもある。
「一年生が揃ったな。では自己紹介をするために移動しようか」
部室の奥にあったロッキングチェアに座っていた小柄な女子生徒が立ち上がる。
二、三年生が小柄な女子生徒にゾロゾロとついていき、一年生も慌てて追いかける。
二階にあった部室から一階にある訓練室に移動した。
訓練室には魔獣が待ち受けていた。
「私は堤麦。第二テイマー部の部長だ」
ムギは自分の背ほどもあるイノシシの前でクルリと体を振り返って自己紹介を行う。
「この子はドン。私の契約している魔獣のクロツノイノシシだよ」
大きなイノシシの大きな牙はまるで黒曜石のように黒く艶やかだ。
「僕は七村蒼。副部長だよ。この子がムルワッカ」
ソウは相変わらず背負っている亀を見せる。
三年生と二年生たちが自分と魔獣の自己紹介をする。
「寺西大輝です。まだ契約している魔獣はいません」
テイマー部に入るのは何もすでにテイマーである人ではない。
未経験者が部活に入れるのだから魔獣と契約していない人がテイマー部に入っても構わないのだ。
「大嶺晶と申します。こちらが私の魔獣であるミーリャンです」
アキラという一年生の女子は肩にネズミを乗せていた。
キズクはアキラの顔に見覚えがある。
なぜなら同じクラスだったから。
キズクの隣はケンゴであるが、ケンゴのさらに隣がアキラだった。
一番後ろの席の配置は不思議だと思っていたが、契約している魔獣が大きい人が端に配置されていると気づいた。
大きな魔獣を端に寄せておこうという意図だろう。
アキラの魔獣は小型なので真ん中の席になっているのだ。
まだほとんど会話をしたことがなかったけれど、第二テイマー部に入るのは驚きだった。
ちなみにケンゴは陸上部に入るらしい。
「北形絆九です。俺のパートナーのリッカとノアです」
最後はキズクの番であった。
どういった顔をしたらいいのか分からなくて、モニョモニョとした微妙な笑顔を浮かべて挨拶することになった。
思えば人生一度経験したけれど、対人関係についてはあまりいい経験をしてきたとは言えない。
こういう感じも初めてで、実は内心緊張している。
「マルチテイミング……」
「しかもあの大きな狼……強そうだな」
二、三年生がキズクの自己紹介にざわつく。
やはりリッカの存在は大きいし、注目されてリッカはドヤ顔をしている。
あまり知識のない人ならリッカに対して驚くが、二、三年生ともなってテイマーの知識がしっかりすると二体以上の魔獣と契約しているキズクにも驚く。
「そんな才能があるなら第一テイマー部に行った方がよかったんじゃないか?」
「あいつらの中にいても才能を腐らせるだけだ。うちを選んだのは賢い判断だろう」
「ほらほら! 自己紹介は終わったし、歓迎会といこう!」
一年生の中でも契約している魔獣、才能共に異質なキズクに先輩たちはざわついている。
ただムギはそんなこと関係ないというように手を叩いて鳴らし空気を打ち切ると、パッと笑顔を浮かべる。
「三年生はテーブル、二年生は料理持ってきて!」
テキパキと指示を出して二、三年生が動く。
魔獣でも手伝えるものは手伝って訓練室にテーブルが並べられる。
そしてその上に料理が乗った大皿が並べられる。
「事前に食堂に頼んでおけばこういうこともできるんだよ」
ムギがニッコリ笑う。
紙コップにジュースが入れられてそれぞれ配られる。
「それじゃあ新しい仲間たちの入部を歓迎して! かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
こうして歓迎会が始まった。
「なあ……」
「なんですか?」
三年生の先輩がキズクに声をかけてきた。
「その子……触ってみてもいいか?」
三年生の先輩はチラチラとリッカのことを見ている。
テイマーには動物好きという人も多い。
見た目デカいウルフなリッカは怖いと思う人も多いが、デカい動物が好きな人にとってはたまらない見た目なのだ。
「リッカ……いいか?」
基本リッカは気高い。
キズクの前では撫でられるとテロテロになっていることも多いが、他の人にはあまり触らせたがらない。
ダメかもしれないなと思いながらも、一応キズクはリッカに聞いてみる。
「なんだ?」
お肉を食べていたリッカはちょいちょいとキズクを手招きする。
「ご主人様のため、ちょっとだけならいいですよ」
キズクが顔を近づけてみると渋々といった感じでリッカは答えた。
リッカが少し触られるだけで、キズクが周りに馴染めるのならとリッカもキズクを思いやったのだ。




