始まるアカデミー生活1
「およそ百年前、ゲートと呼ばれる異世界への入り口が開いた。銃火器による攻撃が通じないモンスターも多く、抵抗虚しく人類はモンスターは敗北した。人類は一部の土地、あるいは国に至るまで放棄して生き延びることに集中した。この間十年……第一次世界ゲートアウトブレイク、そして人類の衰退期だ」
入学の慌ただしさがいまだに落ち着かない中でアカデミーの授業が始まった。
地元の高校というわけではなく、国内から広く人が集まるアカデミーでは最初から大きなグループを成している人も少ない。
みんながみんな、互いを知らないわずかなギクシャク感が教室に漂っている。
そんな雰囲気の中でも授業は関係なく進む。
今行われているのは歴史の授業だ。
ゲートやモンスターの出現によって人類の歴史は大きく変わってしまった。
もうすでにゲートというものが現れて、中からモンスターが溢れてから百年近くが経過している。
モンスターが現れた一方で覚醒者はおらず、人類は銃やミサイルなどの近代兵器で対抗しようとした。
もちろん一定程度の効果はあった。
しかし強いモンスターや硬いモンスターには銃火器で対抗できなかった。
迫り来るモンスターに人類は押されて多くの人が死に、都市や土地、国を放棄せざるを得なかったのである。
最初期には世界中に一気にゲートが出現し、一気にモンスターが出てきた。
ゲートの出現を第一次世界ゲートアウトブレイクと呼び、モンスターによる侵攻によって人類が追い詰められた期間のことを衰退期と呼ぶ。
「けれどここで、覚醒者と呼ばれるものが現れ始めた。魔力というエネルギーを操るものだな。ここから人類の反撃が始まった。モンスターを討伐し、世界中での復興が始まった」
今キズクの生活は平和で安定している。
それは多くの人の尽力によってようやく得られた平和なのであった。
「いまだにモンスターから取り返せていない土地も多くあるが、復興の様子は荒れる前のものにだいぶ近づいてきた。モンスターの素材研究、あるいは魔力エネルギーの活用なども加わって世界は新たな姿になりつつある」
「眠いのぅ……」
キズクの肩にとまっているノアは小さくあくびをした。
中学校でも習うような基礎的な歴史の授業は聞いて、黒板をノートに書き写すだけの機械的な作業しかないような暇なものである。
リッカもキズクの後ろで丸くなって寝ている。
「今日はざっくりと現代史について説明した。だが歴史はまだ続いている。これからもだ。まだモンスターに支配されている土地もあるし、ゲートはこれからも出現するだろう。君たちが先の歴史を担っていくことになる。……ちょうどいいな授業はここまでだ」
キリのいいところでチャイムが鳴った。
先生が教室を出て行って、またそれぞれ顔色を窺うような感じになる。
「なあ、次基礎武術だよな?」
「ああ、そうだよ」
隣の席の男子がキズクに声をかけてきた。
黒髪に黒い瞳、ボサっとした髪型をしているが、それがよく似合っている健康的な男子で、名前は天谷謙吾という。
後ろの席なのでキズクと同じくテイマーである。
ケンゴの魔獣は赤っぽい色をした手のひらぐらいの大きさのトカゲである。
「早く着替えて行かなきゃな」
「そうだな。リッカ、ノアここで大人しくしててくれ」
テイマーでもあるおかげか、ケンゴがリッカに慣れるのも早かった。
だからキズクにも声をかけてくれている。
教室でやる授業はリッカとノアも教室で一緒にいられる。
しかしどの授業も一緒というわけにはいかない。
連れていけない授業の時は教室にいてもらうしかないのである。
基礎武術というは座学ではなく、体を動かす授業だ。
ジャージに着替えて武術室という場所に行く必要があるのだけど、そこに魔獣用のスペースはなく邪魔になってしまう。
だから仕方なく教室待機してもらうしかないのだった。
「さっさといかないと遅れるぞ」
「そだな!」
まだまだ周りの人と馴染めてはいないが、学生生活らしくなってきた。
回帰前はリッカを奪われた影響やカナトのせいで金銭的に厳しかったために高校生活も灰色だった。
将来のことを思えばただただ学生生活を堪能するとはいかない。
でも少しぐらいは楽しもうと思う。
キズクは更衣室でジャージに着替えて第一武道室に入る。
迷子にならないように校内も一度見回ってなんとなく構造も頭に入れてある。
「遅刻を許すのは一回だけだからなー!」
学校の大きさや構造を把握していなくて遅れてくる生徒もいたが、授業の最初はどうしても遅れてくる生徒がいることも分かっているので先生も怒らない。
「さて、今日やるのは素手での戦い方だ。武器を持てなくてがっかりするかもしれないが、体の動かし方を分かっていないのに武器を扱うことなんてできない」
ジャージ姿の若い教師である森脇雄介も覚醒者を教えるために覚醒者である。
「素手で戦う人は多くないだろうが、何事も基礎が大事だ。武器を持つのは後期からになる。今のうちから何を使うか考えておくにはしろよ」
それから基本的な突きの姿勢や体の動かし方、一連の動作を一つにした型なんかを習った。
「最後に……この中にも経験者はいるはずだ。素手で動く経験は少ないだろうが、軽く対戦してもらおうか」
モリワキは教室にある時計で時間を確認してみんなを集めた。
周りの子に刺激になれば、と軽い手合わせをさせようと考えていた。




