部活動、キズクの狙い3
「それにしても立派な子を連れてるね。そして可愛らしい子も」
ソウはリッカとノアを興味深そうに眺める。
「……まだ入学して間もないのに……いや、入学前からかな?」
「そうです。入学前からのパートナーです」
「それなのにデュアルテイム……しかも全くタイプの違うモンスターか」
リッカのような強そうなモンスターと契約していることも驚きであるが、キズクが二体もの魔獣を引き連れていることにソウは驚いていた。
複数の魔獣と契約することはマルチテイミングと呼ばれている。
今では珍しいとまでいえないが、それでも複数の魔獣と契約することは簡単なことではない。
能力も必要だし、すでに契約している魔獣との相性、モンスター親和性の問題もある。
基本二体目は似たタイプの魔獣と、強くなってから契約するものである。
まして全く異なるタイプの魔獣と契約のは珍しい方だ。
加えてキズクはまだ覚醒者になったばかりで、二体目を契約するような段階にはないはずなのである。
「すごい才能だね」
たとえ力が及ばなくとも高い親和性と相性の良さがあれば理論上契約は可能である。
高い親和性があるのだろうとソウは思った。
「いえ、俺の親和性はゼロですよ」
「えっ?」
キズクは笑顔で答える。
後々バレて非難されても困る。
どうしてゼロになったのかのロジックは分かっているものの、現段階で検査結果は親和性無しなのだ。
ちゃんと事前に言っておく。
「親和性ゼロで……モンスター二体と契約?」
「そんなことあるんですか?」
「僕も知らないよ……」
親和性がなくてモンスターと契約できるものなのか。
ソウもアヤメも不思議そうな顔をしている。
ただ親和性が無いことを馬鹿にするような雰囲気はない。
それだけでもかなり良いところかもしれないと思える。
「まあなんにしてもだ、契約しているという事実が大事だ。現にしっかり彼に従っているようだし、問題がなければそれでいいだろう」
親和性が高ければモンスターと契約しやすいと言われている。
じゃあ低ければ、と言われてもあまり聞いたことのある話ではない。
高ければ契約しやすいのなら、低いと契約しにくいというだけの話だろうとソウは考えた。
「親和性が高いことを鼻にかけて偉そうにしている奴らより、よっぽど君の方が人が良さそうだしね」
親和性が無いというのは多少気になる話ではある。
しかしモンスターと契約できているなら、親和性が無くともさほど問題ではない。
「ちなみに僕の魔獣はこの子だ」
「……あっ!」
「はははっ! 気づかなかったかな?」
ソウが背中を向ける。
背中には大きな亀が背負われている。
爪を引っ掛けているようだけど、それだけじゃ無く抱っこ紐のようなものでも支えている。
「僕に背負われるのが好きみたいでね。爪だけど重くて痛いから紐で支えてるんだ」
ソウは朗らかに笑う。
なかなか良い人そうだ。
「見学ってことは入部希望かな? 一応建物の案内とかしようか。それからよく考えて決めてくれれば……」
「いえ、入部します」
「へっ?」
「今この場で入部届書きます」
「別に急ぐことなんてないんだよ?」
流石に話が急すぎる。
ソウは少し慌てる。
「先輩たちを見てここが良いなと思ったんです」
少なくともソウとアヤメは悪い人ではない。
どの道第二テイマー部には入るつもりだったので、多少の勢いにも任せて入部してしまおうと思った。
「じゃあ入部届書いてもらおうかな」
親和性が無いということは多少の引っかかりを覚える。
しかしすでに魔獣と契約していて、その魔獣は強そうだ。
キズクそのものの人柄も悪くなさそう。
魔獣を見れば人が分かる、なんてことを言う人もいる。
リッカとノアから感じられる雰囲気でも悪く無いものである。
「ええとこれに記入をお願いします」
入部届を受け取ってその場で必要なことを書いていく。
「まだ募集期間で、他の子も入ってくるかもしれない。正式にみんなで顔を合わせるのはもうちょっと後になる」
「分かりました」
「よろしくね。キタカタ君」
「よろしくお願いします」
入部届を受け取るとソウは嬉しそうに目を細めた。
結局他の人も第二テイマー部には帰ってこず、キズクは寮に帰ることにした。
「ふむ……第一テイマー部、とやらではダメだったのか?」
「そうだな……あんまり良くない場所だと思うよ」
第二テイマー部で色々としている間に、勧誘合戦も一段落ついて人通りも少なくなっていた。
周りを確認して声を抑えめにノアがキズクに話しかける。
「それに第二テイマー部に入る目的があるんだ」
「目的……とな?」
「ああ、もしかしたらもう一体ぐらい仲間が増えるかもしれないな」
「なんと……浮気か?」
「人聞きの悪い言い方するなよ」
キズクはアカデミーに通ったことはない。
ただアカデミーに通っていたという覚醒者の数はすごく多い。
話を聞くこともある。
アカデミーに入ることになって、何かできることはあるだろうかと考えた。
そして一つ思い出したことがあるのだ。
不幸な未来。
もしかしたら変えられるかもしれないことがある。
「まあもしうまくいかなくても、第二テイマー部の方が良さそうだ」
回帰前にも第一テイマー部と第二テイマー部の確執話は聞いたことがある。
荒れた世界で生き残っている人には不思議と第二テイマー部の人が多く、意外と愚痴のようなものも聞いたものだ。
アヤメにぶつかった三年生の先輩のこともある。
フラットに見ても第二テイマー部を選んだだろう。
「問題は、その問題を解決するかってことだな」
キズクは軽くため息をついた。
まだまだ何もかもスタートライン。
これからの行動によって色々と変わる。
どうなっていくのか、それはキズクにも誰にも分からない。




