アカデミー入学4
「キタカタキズクです。後ろにいるデカいのがリッカで、その上に乗っているのがノアです。よろしくお願いします」
席順的にキズクが最後だった。
立ち上がって名前を名乗る。
ついでにリッカとノアのことも紹介しておく。
リッカとノアに触れるとみんなの視線がキズクからリッカに移る。
ちょっと怖いので直接凝視することはしてこなかった子も多かったので、初めてしっかり見る子も多い。
丸くなるようにして伏せているリッカは視線を浴びても目を閉じたまま気にした様子もない。
ノアは翼を広げてアピールをしている。
リッカとノアの印象はキズクの印象にも繋がってくる。
リッカはキズク以外の人に愛嬌を振り撒くことがない。
むしろ冷たいぐらいの態度である。
ノアも別に他人に興味はない。
しかしキズクのためならちょっとぐらいアピールしたって構わない。
「今日はホームルームのみで終わりだが……」
自己紹介が終わって明日以降のスケジュールが説明される。
次の日もまだ授業は始まらない。
まずは魔力適性試験が行われる。
一概に魔力といっても個人の資質によって様々。
大きく分けていえば魔法を使うタイプか、剣などで戦うタイプの二種類がいる。
特殊なスキルに目覚めて枠に囚われない人もいるものの、魔力を魔法とするか、体や武器の強化に使うかで得意なものが分かれるのだ。
魔力適性試験によってどちらに優れているのか大体分かる。
それによって今後の授業も選択が変わってくる。
「あとは校内や部活も見学は自由だ」
教科書販売なんかもあるが、他の人にとっての大きなイベントといえば部活だ。
かつては覚醒者の方が魔力も使えて能力も高いということで、スポーツ分野において覚醒者は大会などに出られなかった。
しかし多くの人が大なり小なり魔力を持つような時代になると覚醒者で制限することが難しくなった。
そのために今では、魔力を抑制する装置を身につけることで覚醒者も一般のスポーツ大会に出場できるようになった。
アカデミーでも体を動かすことを目的として運動部系の部活も盛んだ。
覚醒者をやる人は運動が得意なことも多いので、実はアカデミーは部活動も強いのである。
もちろん運動部系以外の部活も多いが、どの部活に入るのか楽しみにしている人も多いのだった。
「今日はこれで終わりだ。帰ってもいいし見学をしてもいい。しかし門限はあるから気をつけろ。あまりルールを破ると外出禁止などの措置を取ることになるからな」
無駄に長々と話をしないこともミシマの良いところだろう。
ホームルームが終わって教室が一気に騒がしくなる。
「オオイシ先生」
キズクはまだ教室に残っていたオオイシに声をかける。
「久しぶりだね」
オオイシは笑顔をキズクに向ける。
やはり同姓同名の他人の空似というわけではなかった。
「どうしてここに?」
「そりゃ、僕にも仕事は必要だからね」
「まあ……それはそうですけど……」
「君がいなくなったら僕の先生役は終わり……そんな時にここの教員職が空いていてね。君を教えていたのは個人的な家庭教師としてだけど、実はちゃんと教員免許も持ってるんだ」
オオイシは胸を張る。
確かに教員免許を持っているのは意外だった。
能力があって覚醒者として活動することに決める人が、わざわざ教員免許まで取っておくことは意外と珍しい。
「まあでもこうして君のクラスでこうして副担任になったことは偶然だよ」
「本当ですかぁ?」
キズクは疑わしげな目でオオイシを見る。
「はははっ、いかに僕が人脈も力も優れているといってもアカデミーの人事に口は出せないさ」
あくまでもオオイシがキズクの副担任になったのは偶然である。
キズクが何組なのか調べて、キズクのクラスの担任にわざわざなる意味もなければ、無理に担任にしてもらうような力もない。
「まあそうですね」
「とりあえずよろしく。少なくとも一年は一緒だ」
「よろしくお願いします、オオイシ先生」
「君も僕も慣れないけど……頑張ろうね」
オオイシはいつもと変わらずに笑顔を浮かべる。
予想外の知り合いがいた。
オオイシがアカデミーにいるということが、回帰前にもあったのかどうかはキズクには分からない。
このことがキズクの生活にも影響を及ぼすのか。
不安と希望が入り混じるアカデミー生活のスタートとなったのだった。




