アカデミー入学3
「あいつはいない……か」
教室に入って真っ先に確認したのはカナトがいるかどうかだった。
入学式ではカナトのことを見た。
つまりカナトも合格しているということだ。
同じクラスだったらどうしようという考えはあった。
カナトが少なくとも一年間同じクラスなど耐えられない。
まだ教室にいない人もいるので確実ではないが、ひとまず安心した。
「えーと……」
教室の後ろにはスペースがあって、そこで魔獣は待機することになる。
黒板に座席が貼ってあるのでどこに座ればいいのか確認する。
「んん?」
キズクの座席は端っこだった。
窓際の一番後ろの席である。
悪い席じゃない。
ただなんでそこなのか分からない。
教室を見た感じ男女で分かれている。
そして男子の五十音順で前の方から埋まっていっている。
キズクは今北形としてアカデミーに入学していた。
五十音順でいえば‘き’であり割と早い方である。
なのに男子どころか女子も含めた一番後ろになっているのだ。
仮に王親だとしても‘お’なのでむしろもっと早くなる。
「……なるほどな」
座席表を眺めていても分からなかったが、座っている人を見てなんとなく理解した。
よく観察してみると後ろの座席に触っている人の近くに魔獣がいる。
「テイマーが後ろに配置されてるのか」
ある程度は五十音順という法則になっているが、一番後ろの列はテイマー並べているようだった。
魔獣との距離が近くなるように、という配慮かもしれない。
「近くて悪いことなんてないしな」
キズクが席に着くと、椅子横に伏せたリッカがキズクの太ももに顎を乗せて目だけ見上げる。
可愛らしい顔をしているとキズクは思うけど、前の席の女の子はちょっと嫌そうだ。
そのうちにリッカの魅力もみんなに伝わればいいなと思う。
リッカのほっぺたをムニムニとして遊んでいると、いつの間にか教室の席も全て埋まっていた。
「おっ、レオンがいるな」
新しく席に着いた人の中にカナトはいなかったが、レオンはいた。
お近づきになりたいと思っていたところなのでちょうどいい。
レオンは嫌そうな顔をしていたけれど、キズクは気にしない。
「これから仲良くしていこうぜ」
キズクはニヤリと笑う。
レオンはなぜか背中がぞくっとした。
「あなた、テイマーだったのね」
「君は……えっと」
「ウエスギシホ。忘れてないよね?」
キズクの机にバンと手をついて女子生徒が声をかけてきた。
キズクが顔を上げると、青くも見える黒髪の美少女の顔が目の前にあった。
キズクが入試の時、実技試験で戦ったウエスギシホである。
「忘れちゃいないが……何の用だ?」
もちろん、負けたあの日から剣も頑張ってきた。
忘れてはいない。
だけど話しかけられるような関係でもないし、用事もない。
何の用で話しかけられたのかキズクにはわからなかった。
「あなたテイマーだったのね」
シホは同じ言葉を繰り返してリッカのことを見た。
「ああ、俺はテイマーだよ。こいつらは俺のパートナーだ」
「じゃあ、あの時あなたは本気じゃなかった」
「あの時? 入試の時は全力だった」
何を言いたいのかよく分からないなとキズクは肩をすくめる。
「私は勝ったと思った。でもあなたはテイマーで……本気じゃなかった」
シホは険しく目を細める。
テイマーの本気は魔獣と共にあってこそだ。
確かにリッカとノアがいないので、キズクの全ての力を発揮したとは言えないかもしれない。
ただ全力で戦いはした。
あの時、あの条件における本気、全力だった。
「あの勝負はまだついてない」
「そんなこと……」
「はーい、静かに〜席に着いて」
「えっ?」
まだ先生来ないね。
そんな会話が周りから聞こえ始めていた。
教室の前の方から二人の先生が入ってきた。
その一人を見てキズクは驚いて小さな声をあげる。
シホは話の途中で席に戻ってしまう。
先生が来た以上はしょうがないけれど、ちょっとモヤモヤする。
「ヤシマヒロミだ。学年主任で、一年一組の担任を一年間勤めさせてもらう」
入ってきた二人のうちの一人はヤシマであった。
入試の時にカナトとトラブルになって庇ってくれた先生である。
厳しそうだけど、カナトのことを贔屓せずに平等な目で見てくれる。
キズクの中で先生としてはかなりいい人だ。
ただキズクが驚いたのはヤシマに対してではない。
「僕が副担任のオオイシコウジです。副担任だけど、よろしくね」
キズクが驚いたのはもう一人の方だった。
ヒラヒラと手を振って挨拶するやや軽薄そうな男性はオオイシであった。
北形家でキズクのテイマーとしての教育を担当してくれていた覚醒者だ。
キズクがアカデミーに入学することになってオオイシも北形家を離れた。
長期休暇でもなければ帰ってこないのに北形家にいる意味はないからである。
どうするのか聞いたことはあった。
その時は‘なるようになるさ’なんで答えていた。
まさかこんなに早い再会を果たすとは思いもよらなかった。
キズクはオオイシとわずかに目があった。
オオイシもテイマーである。
キズクとは顔見知りであるので、副担任になってくれることはありがたいと言えるかもしれない。
「何か相談とかあったら遠慮なく僕のところにも来てくれて大丈夫だよ」
ヘラヘラと笑うオオイシにミシマは目を細めるけれど、文句を言うようなことはない。
「それじゃあ今日はそれぞれ自己紹介をしてもらう。細かくは個別にしてもらうことにして、名前と一言を順に言ってくれ」
端の前から順に自己紹介が始まる。




