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出来ることから3

「にしてもどこで落としたんだろうな?」


 車は町の方ではなく、より人気のない外に向かって走っていた。

 建物や人通りがなくなって森の中に入っていく。


「どこでも落としてそうですもんね」


「そんなことないって言えないのが辛いな」


 タカマサは平然と笑うけれど、あまり笑い事ではない。

 森の中を走った車は森林公園駐車場と看板のあるところに入った。


「ほれ、キズク。お前の装備」


「ありがとうございます」


 駐車場に車を止めて、タカマサはトランクを開けた。

 バンの後ろには荷物がたくさん載せてあって、タカマサはその中から防弾チョッキのようなものを手に取ってキズクに渡す。


 キズクはスポッと頭からかぶるようにしてチョッキを身につけ、剣を取って腰に差した。

 リッカの首輪とノアの紐を外して自由にする。


「今日回ったのは森林公園のコースだ。見回りもしたし、モンスターやゲートの可能性は低いと思うが油断はするなよ」


 落とし物は今日行ったどこかにあるだろうと言っていた。

 キズクたちは森林公園と書かれた古い看板のある舗装された道に進んでいく。


 何十年も前、この世界には突如としてゲートと呼ばれるものが現れた。

 ゲートの向こうには異界の環境が広がっていて、モンスターと呼ばれる強い力を持った生き物が住んでいる。


 最初ゲートが現れた時にはゲートからモンスターが溢れて世界は大混乱に陥った。

 けれどゲートやモンスターといった存在と共に覚醒者というものも現れた。


 覚醒者は魔力と呼ばれるエネルギーを操り、モンスターと戦った。

 最初にゲートが現れてからゲートやモンスターと覚醒者との戦いの歴史は続いている。


 二回に及ぶ大崩壊という大量のモンスターの発生を乗り越え、今は比較的落ち着いた時を過ごしているのだった。

 それでもゲートやモンスターは日々発生している。


 泉ギルドは覚醒者たちが集まっている覚醒者ギルドというものである。

 ゲートを攻略したりモンスターを倒したりするのが覚醒者、あるいは覚醒者ギルドの仕事だ。


 泉ギルドでは人の出入りが少ない郊外を見回ってゲートやモンスターが現れていないかを調べることを仕事としている。


「どうだ、リッカ?」


 今キズクたちがいるところはかつて森林公園だったところである。

 現在では、ゲートやモンスターの危険性があるから一般人は立ち入らない。


 先頭を行くリッカはキズクの方を振り返って首を振る。

 探している測定器とはゲートの反応を感知する機械で、ある程度離れたところでもゲートが発生していたら分かるというものだ。


 タカマサがどこかにそれを落としたらしくて、リッカの鼻を利用して探しているのだった。


「ここら辺が中間地点だ。少し休憩しよう」


「んー! そうだな。一日二周は疲れる!」


 ちょうどベンチが置いてある広場のようなところに着いた。

 道中静かだったタカマサは古びたベンチにドサっと座る。


「ん? リッカ、どうした?」


 クンクンと鼻を動かしたリッカが森の方に歩いていく。


「一人じゃ危ないぞ」


 リッカについていくキズクにトシもついていく。


「……チェッ」


 タバコに火をつけようとしていたタカマサも渋々二人の後を追う。


「あっ! あれじゃないですか?」


「本当だ!」


 広場から少し森に入ったところに測定器は落ちていた。

 キズクが測定器を拾い上げてみると特に壊れたような様子もない。


「あー、そういえばタバコ吸いに……」


「イトウさん、いましたもんね」


 どうしてこんなところに測定器が落ちているのか、タカマサには心当たりがあった。

 見回りをしていたチームにタバコ嫌いの人がいた。


 同じように広場で休憩の時にタバコを吸おうとして睨まれたので、タカマサは少し広場から離れて森の中でタバコを吸っていた。

 その時に落としたのである。


「なるほどな……ともかく助かったぜ。見つからなかったらぶっ飛ばされるとこだった」


 キズクから測定器を受け取ったタカマサは安心したように笑顔を浮かべる。


「ん?」


「どうかしましたか?」


 ちゃんと動くことを確かめようと測定器のスイッチを入れたタカマサが首を傾げた。


「反応がある……」


「反応? ゲートのですか?」


「ああ、そうだ」


「キズク君、周りにモンスターの気配は?」


 まだ未成年で弱いはずのキズクが冒険者ギルドで働けている理由は一つだ。

 リッカの能力を使って先にモンスターを見つけることができる探知能力を買われてのことだった。


 キズクがリッカを見る。

 リッカは尻尾を振ってキズクの目を見返す。


「今のところはモンスターはいないようです」


「今朝は反応がなかった……ゲートがあるとしたら出現したばかりだろうな」


「どうしますか?」


「……危険はあるけれど、放置はできない。モンスターがいないならゲートまでは安全に近づけるだろう。ゲートの存在と場所を確認してイズミさんに報告しよう」


 ゲートが現れたからモンスターが出てくるとは限らない。

 モンスターが出てくることはブレイクといって、基本的にはゲートが現れてから一定時間経過したり攻略に失敗した時に起こる現象となっている。


 ゲートはまだ現れたばかりなことが推測できる。

 モンスターも出てくるまでに時間的な余裕があるはずだ。


 だからといって油断もできない。

 ブレイクが起こる前、見つけたうちに素早く調査することも安全のためには必要なことである。

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