キズクが出来損ないと呼ばれた理由1
大丈夫だろうとヤシマには言われていた。
しかし問題を起こしてしまったことは事実であり、合格できるかどうかの不安はほんの少しあった。
そんな不安を振り払うように鍛錬にまい進した。
レイカも強く、目指すべき高みにいることは間違いない。
けれども、キズクの頭にあるのはシホの姿である。
同年代で明らかに格上の相手に初めて出会った。
己がまだ未熟なことは分かっている。
でも負けたことを振り返ると悔しかった。
ムサシに負けた時も悔しかったけど諦めがつく感じはあった。
でも同年代に負けるのはなかなか胸が晴れない。
焦っても仕方ない。
急に実力が伸びるわけではなく、焦りは成長の妨げになる。
コツコツと積み重ねていくしかないのだ。
「そろそろ……」
「キズク様」
不安と焦りを抱えつつ、それに飲み込まれないように精神的にも強くならなきゃと過ごしていたら、いつのまにかアカデミーの合格発表の日を迎えていた。
レイカは用事があると少し席を外しているが、いつもの鍛錬は怠らない。
ただやっぱり結果は気になるので合格かどうかだけ確認しようと思っていた。
鍛錬も一区切りついたので合格発表を見ようと汗を拭いていると、サカモトがやってきた。
手には封筒を持っている。
「こちら届いておりました」
「あっ、これって」
「合格通知でございましょう」
「まだ分かりませんよ」
サカモトから封筒を受け取る。
封筒はアカデミーからのものだった。
不合格者に通知は送らないのは本当だ。
封筒が来たということは合格だろうとサカモトは考えていた。
けれども封筒が来たから合格というわけでもない。
なぜなら受験者たちは検査を受けたからである。
魔力検査と親和性検査を受けたので、たとえ不合格でも検査の結果は送られてくることになるのだ。
中に合格通知はなくて、検査の結果だけという可能性もある。
悲しいが現実にはそうしたこともあるのだった。
「中身見てみれば分かるか」
その場で封筒を開く。
「おっ、合格だ!」
最初に目についたのは合格通知だった。
嬉しさというよりもホッとした安心感の方が強い。
ペラペラと書類を確認していく。
入学に必要なものやアカデミーのプログラムについての説明など読むのもめんどくさそうな書類がたくさん。
「魔力検査の結果……」
書類の最後の方に魔力検査の結果の紙が入っていた。
「えっ!? S級!?」
覚醒者は魔力と言われている。
魔力を操る者が覚醒者なのである。
つまり魔力の素質こそ覚醒者の素質の大きな部分を占めると言い換えてもいい。
魔力は複数の要素から判断される。
魔力の量、魔力の質、魔力の器、魔力のコントロール、魔力の放出の五つからなる。
それらを検査して総合的に魔力の等級が決まる。
一番下のG級から一番上はS級となる。
「S級ですか? すごいではありませんか」
サカモトが自分のことのように笑顔を浮かべて喜んでくれる。
「そうだね。でもまあ……一般的な検査じゃないからね」
そう言いながらもキズクもニヤニヤとしてしまう。
今回の検査は本当の検査ではない。
受験者の中にはちゃんと覚醒していない人も多い。
魔力のコントロールや魔力の放出を検査することは難しい。
そのために入試の時に行われた魔力検査では魔力の量、魔力の質、魔力の器の三つで検査が行われた。
魔力の量はそのまま現在の魔力の量である。
多ければ多いほどいい。
魔力の質や魔力の器は個人的な資質も大きく関わってくる。
魔力の質なんかは個人で改善することがほぼ不可能なので魔力検査の結果に影響もある。
加えて今回の検査は受験者ということを考慮して、受験者の基準での等級判定がなされている。
だからS級といっても受験者としてずば抜けているというぐらいの意味なのだ。
ただ嬉しいものは嬉しい。
回帰前、キズクはアカデミーに入学することはなかった。
だから入学時の魔力等級がどうなっていたかは知らない。
今回は少なくとも評価されているようだ。
キズクは回帰前も魔力の質や器の評価は良かった。
ただ覚醒者としてやっていく気は完全に折れていた。
鍛錬で伸ばせる魔力のコントロールや魔力の放出、戦えば強化される魔力の器や魔力の量も弱いままだったのである。
子供の頃は才能があると期待されていた。
いつ頃からそうなってしまったのだろうか。
「で、親和性検査の結果か……」
魔力検査の結果の紙の後ろにモンスター親和性検査の結果もあった。
「うーん、見事なグラフ」
魔力検査の結果はどうなるのか分からなかったけれど、親和性検査の結果は分かっていた。
結果の紙の上には六角形のグラフが載っている。
キズクのグラフは綺麗なものだ。
なんせ、点なのである。
六項目をゼロから五で点数付けされているのだけど、キズクは全てがゼロになっていた。
親和性検査にはいくつか種類がある。
といってもアレルギーの検査みたいに、項目が増えたり減ったりするような違いしかない。
何が違うのかというと、モンスターの種類が細分化されたり増えたりするのだ。
アカデミーで行われた親和性検査は基本的なもので、メジャーなモンスターを大きく六分類してそれぞれのモンスターの種類に親和性があるかどうか調べるものである。
全てゼロということはキズクはどんなモンスターにも親和性がないということになってしまうのだ。




