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伝説級モンスターを育てて世界の滅亡を防ぎます〜モンスターが人型になれるなんて聞いてないんですけど!?  作者: 犬型大


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アカデミー入学試験8

「教員が不公平に生徒に便宜を図るのは良くないな」


 コワモテの教員がゆっくりと立ち上がる。

 座っていると分かりにくかったけれど、立ってみるとコワモテの教員は背が高い。


「俺の目から見ても原因はお前の魔獣がちょっかいを出したことだ。よく我慢していた方だろう」


 コワモテの教員に見下ろされてカナトは思わず一歩下がる。


「反撃だって制圧して押さえつけていただけだ。見てみろ、ろくに怪我もしてねぇ」


 コワモテの教員はカナトの魔獣をあごでしゃくる。

 カナトの魔獣はリッカにやられたせいなのか怯えたようにしているが、特に怪我をしているような様子はない。


 時に相性の悪い魔獣同士で小競り合いが起こることもある。

 そのための監視であり、元より多少の争いは問題にもしない。


 見た目に大きな魔獣同士が争ったのでちょっと騒ぎになっただけである。

 互いに被害はない。


 ならば口頭で注意するぐらいで終わらせるのが普通である。


「よほど重大な問題じゃない限りその場で失格は言い渡せない。それも俺とお前の合意があって、だ。お前一人の権限ではない」


 メガネの教員は怒りの表情を浮かべている。

 他の受験者もいる中でこんなふうに言われては、メガネの教員が無能のように映ってしまう。


「それでも失格にすべき問題だというのなら、インシデントてして上に報告しよう。調査を経て正式に何が起きたのか解明して問題の解決を図ればいい」


「調査!? それはまずいな……」


 調査と聞いてカナトの顔が曇る。

 カナトは色々な問題を起こしたせいで、花の中学生活を謹慎して過ごすことになった。


 アカデミーに入学するということでようやく謹慎も解けたのに、また問題を起こしたとバレれば今度は高校もアカデミーを取りやめて謹慎させられるかもしれない。


「……チッ」


 オドオドとし始めたカナトを見て、メガネの教員は小さく舌打ちする。

 分が悪い。


 このまま主張を続けても扱いが悪くなるだけだ。


「……一人の意見ばかり聞きすぎたようです」


「ならば問題はないな?」


「ええ。問題はありません。インシデントとして報告するまでもないでしょう」


 怒りの表情を引っ込めて、メガネの教員は無表情で答えた。


「もう時間も時間ですし、この件は終わりにいたしましょう」


 こうして話している間にもさらに人や魔獣は減っていて、残っているのは数人となっている。

 試験も終わっているので、あとは帰るしかない。


「何をしているのですか? 早く帰りなさい!」


 メガネの教員が残っている受験生たちを睨みつける。

 残っていた受験生たちも教員に目をつけられてはマズイとそそくさと帰っていく。


「悪いな、変なことになってしまって」


 メガネの教員からブロックするような形でコワモテの教員がキズクに声をかける。


「いえ、大丈夫です」


 あんなことがあれば、大きなショックを受けていてもおかしくない。

 しかしキズクはなんてことはなかったというように笑顔を浮かべる。


 精神的に強い子であるのだな、とコワモテの教員は感心してしまう。


「校門まで送っていこう。何かちょっかいをかけてくるやつもいるかもしれないからな」


 コワモテの教員はチラリとメガネの教員を見る。

 睨みつけるような目つきを見る限り、あまり反省をしているようには見えなかった。


「ではお言葉に甘えて」


 キズクとしても面倒は避けたい。

 一日戦わされて疲れてもいるし、もうカナトの相手をするのもこりごりだった。


「あとは頼む」


 キズクのことを庇ってくれようとした男子生徒に片付けを任せて、コワモテの教員とキズクたちは体育館を出る。


「立派な魔獣だな」


 八島大海ヤシマヒロミと名乗ったコワモテの教員は、リッカに視線を向ける。

 やらかしを取り戻そうとリッカは、キズクにピッタリくっつくようにしてキリリと歩いている。


「俺にはできすぎたぐらいの魔獣です」


 キズクはリッカの頭を撫でる。

 ノアがキズクの肩でグヌヌという顔をするが、褒められているのはリッカの方だから仕方ない。


「この時間まで残っているということはほぼ合格だろう」


 ゆったり歩きながらヤシマは会話を続ける。

 帰りが遅いほど実技で勝ち残っているということになる。


 勉学も大事だが、やはり覚醒者としては力も大事だ。

 ある程度勝ち残っているならテストを白紙で出してもいない限りは合格と言っていい。


「魔獣もそうだが、強いのだな。あの状況での落ち着きといい、君には期待できそうだ」


 気づけば校門前に着いていた。

 もう周りに人気は少ない。


「それじゃあ気をつけて帰るんだぞ。寄り道なんかはしないように」


「分かりました。今日はありがとうございます」


「当然のことをしただけだ」


 ヤシマは手をひらひらと振りながらアカデミーに戻っていく。

 メガネの教員は嫌いだけど、ヤシマは良い先生そうだとキズクは思った。


「キズク、遅いじゃない」


「母さん! どうしたの?」


「あなたの帰りが遅いから心配になってきたのよ」


 校門近くにレイカがいた。

 予定していた時間よりも遅いので迎えに来たのだ。


「どうだった?」


「筆記はまあ良かったよ。全部解けたからミスが無ければいいところいくと思う。実技は……」


 レイカに試験のことを話しながら帰る。

 きっと上手くいく。


 そんな感覚がキズクの中にはあるのだった。

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