アカデミー入学試験2
「人が多いな……」
体育館から移動して教室がある建物の方に移動してくると受験者たちでごった返している。
今の時代、覚醒者という仕事は人気だ。
昔は危険なためになりたがる人も少なかった。
アカデミーができて覚醒者としての初等教育が始まったり、覚醒者やモンスターの研究が進んだり、あるいは先人の知恵の蓄積なんかによって覚醒者活動のリスクは昔に比べて下がった。
結果的に一攫千金も狙える覚醒者の希望者がグッと増えた。
時代が進み、ゲートやモンスターとの生活が普通になると覚醒者の需要も増した。
人を助けるというヒーロー的な自己顕示欲も満たせるし、今時よほど能力が低くない限りは覚醒者として仕事がないということもない。
強い覚醒者は高待遇を受けられるし、夢もある。
アカデミーに通って覚醒者になれば基本が安全に学べるだけでなく、大きなところから声をかけられる可能性も高くなる。
マイナスなことなんてほとんどないのだから、みんなアカデミーに通いたがるのだ。
「ここか」
キズクは試験会場となる教室を見つけた。
席は隅。
個人的には落ち着いていて良いところだと思った。
「それではこれから筆記試験を始めます」
アカデミーはいわゆる高校である。
覚醒者としての適性があるからと、それだけで入れる場所じゃない。
当然日常の授業は高校と変わらない。
そのために入学試験には筆記も課せられる。
一般的な高校の試験とここら辺は全く変わりない。
問題用紙が配られて、試験が始まる。
「まあ、普通だな」
今回の人生では高校にしっかりと進学するつもりだったので、授業もそれなりに真面目に受けてきたし勉強もしていた。
アカデミーに行くことが決まって、鍛錬に加えてちゃんと復習もしてきた。
それにキズクは人生二回目なのである。
こんな試験ぐらい軽いものだ。
どの教科も時間を余して解き終えて、一日目の試験を終えた。
リッカとノアを迎えにいって、ホテルに帰った。
そしてゆっくりと休んで二日目を迎えた。
「二日目は魔力検査と実技試験を行います」
再びリッカとノアを体育館に預けて二日目の試験である魔力検査を受ける。
一日目は高校としての試験。
二日目は覚醒者としての試験である。
「この中に入ってください。特に気を張ることはなく、楽にしてくれれば大丈夫です」
部屋の中には縦型のカプセルが並んでいる。
キズクはカプセルの中に入る。
「息苦しさなどはありませんか?」
カプセルが閉じて、内側のスピーカーから声が聞こえてくる。
「大丈夫です」
「異常を感じたらすぐに申し出てください」
「分かりました」
カプセルが起動して甲高い音が聞こえる。
コピー機でスキャンする時のような音が足元から迫り上がってくる。
「終了です。お疲れ様でした」
スキャン音が頭の上まで移動して、カプセルが開く。
「このままモンスター親和性検査を望まれる方はあちらにお願いします」
カプセルから出た受験者たちは二つに分かれる。
キズクは次の検査に向かう。
「採血します」
次の検査では血を採られた。
それで検査は終わり。
「続いて実技試験を行います」
さらに場所を移して体育館のように広く、白い材質で作られたバトルルームという部屋に移動してきた。
床はテープのようなもので四つに区切られていて、受験者が集められている。
「四人一組になって戦ってもらいます。実技試験の結果はクラス分けにも影響するので頑張ってください」
壁際には木製の武器が並べられている。
四人ずつ受験者が呼ばれて、区切られた四つの場所で用意された武器を使ってそれぞれ戦う。
怪我をしないように魔法で保護もなされている。
多少のダメージはあるかもしれないものの、怪我に至ることは少ない。
戦っている様子を見て、実力はピンキリだなとキズクは思った。
覚醒者になると中学から意識する人は多くとも、覚醒者としての鍛錬を始める人は多くない。
多くの人が戦いに関してど素人である。
素人の中でもセンスがありそうな人もいれば、ダメダメな人もいる。
そして全体の中では少ないながら、明らかに何か鍛錬を積んできたような動きをしている人もいた。
「カナト……」
その中の一人がカナトである。
呼ばれた四人にカナトがいることにキズクは気がついた。
カナトの方はキズクに気がついていない。
剣を手に取ったカナトは戦うことになった三人をあっという間に倒してしまった。
キズクにも敵わないようなカナトであるが、弱いわけではない。
何もしていない受験者に比べるとカナトは準備してきた方なのである。
以前キズクがカナトのことを殴って追い返したけれど、それも不意をついたことによるもので正面から戦えばキズクが負けてしまうかもしれないぐらいなのだ。
ただし今は正面から戦っても負けない自信がある。
「おっと呼ばれたな」
「……キズク!」
勝った人や見込みのありそうな人は残されて、負けた人は退室させられる。
カナトは勝って残っていたので、ようやくキズクのことに気がついた。
キズクを睨みつけているけれど、そんなこと気にしないようにして剣を選ぶ。
パッと見た感じでは他の三人に強そうな人はいない。
ここまでレイカに剣を叩き込まれた。
カナトも見ていることだし、少し見せつけてやるかとキズクはほんの一瞬カナトに視線を向けた。




