アカデミー入学試験1
カナトの妨害もなく、北形家での鍛錬を続けながら中学校生活を終えた。
もしかしたら中年まで生きていることがあれば同窓会なんてことで会うこともあったのかもしれないが、中学の時の同級生と卒業してから会うことはなかった。
回帰前は人を避けていた側面はあるので、今回はわからないものの中学の卒業は感動深いとはいかない。
そんなことよりもキズクが意識していたのはアカデミーだった。
入学すればいいと言われたのだけど、アカデミーも無条件で入学できる場所じゃない。
入学試験があって、合格せねば入学できないのだ。
推薦なんかもあるのだけど、そんな楽はレイカが許してくれないのである。
「ここがアカデミーか」
アカデミーは北形家の家から通える場所にはない。
キャリーケースに荷物を詰め込み、魔獣も泊まれるホテルを探して予約し、前の日にはホテルに泊まって準備した。
魔獣と泊まれるような部屋はお高めの良い部屋だけど、そこら辺は北形家がお金を出してくれた。
「落ち着いていきなさいよ。あなたならきっと大丈夫だから」
付き添いとしてレイカもアカデミー前まで来ている。
北形家を出発する直前まで厳しくキズクに指導していたレイカも、今は母親の優しい顔をしている。
キズクの肩に手を乗せてレイカは大きく頷く。
まだ回帰してきて丸一年も経っていないけれど、食事も豊かになって体を鍛え始めたキズクの身長はグッと伸びた。
まだ高いとは言わないが、回帰前のように背が低いと馬鹿にされることはないだろう。
「行ってくるよ、母さん」
多少の緊張はある。
でもそんなに入学試験は心配はしていないかったりする。
レイカと別れて、キズクはアカデミーの構内に入っていく。
「他にも魔獣は連れている人はいるけど……やっぱり目立つな」
モンスターと契約して力を得るテイマーは、今では珍しいとまでいかない。
王親家を含めたテイマーを多く輩出している家門の働きもあって、モンスターも契約する人もだいぶ増えたのだ。
ただそれでも大型魔獣を連れている人は少ない。
強い魔獣と契約するのは親和性も大事だが、魔獣に認められることも必要となる。
若いうちから力の強い魔獣と契約するのは結構難しい。
多くの人が連れている魔獣は、小型で力の弱いモンスターである。
小鳥や虫、大きくて猫や犬ぐらいのものである。
リッカは今通常サイズだ。
魔獣の中で見ると決して大型とも言い切れないのだけど、現時点で周りと比較した時には大型魔獣と言っていいサイズ感をしていた。
当然目立つ。
周りはチラチラと視線をリッカに向けていた。
リッカは誇らしげな顔をしているが、視線の多くは恐怖や畏怖といったものである。
アカデミーは寮や覚醒者用の訓練施設などもあるためにかなり広い敷地の中にある。
アカデミーはいわゆる高校であるが、イメージとしては大きな大学の方が近いのかもしれない。
入試会場と書かれた案内看板に従って移動する。
「ふむ、快適だな。リッカのおかげだ」
「ふっ……そうでしょう」
アカデミー構内は人で混雑しているが、キズクの周りに人はいない。
そこだけぽっかりと穴が空いたようになっているのは、もちろんみんなリッカを避けているからである。
キズクとしても楽でいいのだけど、反面目立つのは嫌だなというところはある。
ただ今更リッカを隠しようもないのでこのままいく。
「会場はこちらでーす」
制服を着た若い人が何人か案内板を片手に人を誘導している。
教員ではなく、おそらく生徒だろう。
「あら、あなた魔獣を連れていますね。まずあちらの方で魔獣を預けてください」
魔獣同行可能とはなっているが試験中側に魔獣をおくことはできない。
キズクは人の流れを外れて案内された方に向かう。
魔獣を連れた受験者も何人かキズクと同じ方向に歩いている。
「おっ、おぉぉお?」
『魔獣こちら』と書かれた案内板を持って休憩用のベンチに座っていた男子生徒が、リッカを見て驚いたように目を丸くする。
「デカいな」
男子生徒の肩には目の大きな猿のようなモンスターが乗っている。
「他の奴らもついてこい」
男子生徒はキズクを含めた魔獣を連れた受験者たちについてくるように手招きする。
「試験中はここに魔獣を待機させてくれ。喧嘩しないように頼むぞ。もし暴れたらこちらで制圧する。無事に済むかは分からないからな」
案内されたのら体育館だった。
もうすでに何体かの魔獣が待機させられていて、リッカが入ってくると一気に視線が集まる。
魔獣にとってもデカいリッカは脅威に感じられるのか、空気もピンと張り詰めて緊張感が高まる。
「あっちの受付で魔獣の簡単な登録をしてから中を通って会場に」
体育館の中では生徒ではなさそうな三人の覚醒者らしい人と生徒が二人、武装している。
多分魔獣に何かが起きた時に制圧する人たちなんだろう。
体育館に入ってすぐのところにある受付でリッカとノアの名前やキズクのことも伝えておく。
「大人しくしてろよ?」
リッカもノアも知能が高い。
別に勝手に暴れることはないだろう。
それに周りの魔獣もリッカから離れている。
「登録したらこっちだ」
キズクはリッカとノアと別れて、試験会場に向かった。




