閑話・リッカの色々1
「うむむむむ……」
半人化したリッカがキズクと見つめあっている。
リッカはキズクと見つめあっているというのに、鼻にシワを寄せて険しい顔をしている。
「わっふっ!?」
ポプン! と音がしてリッカの半人化が解けて、いつものオオカミの姿に戻る。
「だいたい五分ってところか」
キズクはスマホのストップウォッチを止める。
「むぉ〜ん! 短いよぅ〜!」
リッカは情けなく遠吠えする。
今やっていたのはリッカがどれだけ半人化を維持できるかのチェックである。
サイクロプスのゲート以来、リッカはウェアウルフのようなウルフと人型の間の姿になれる半人化を覚えた。
それがなんの役に立つのか今は不明であるけれど、どこかで役に立つこともあるかもしれない。
最初の半人化もすぐに解けてしまったので、どれぐらい能力を保っていられるのかとか半人化した時のリッカの能力はとか、知っておく必要がある。
サイクロプスのゲート直後は三分が限界だった。
その後、クレイゴーレムのゲートでまたリッカが何かを得たようだったから調べてみた。
現在のところリッカが半人化していられるのは最長で五分程度だった。
「もっと人になってたい……」
何もしていなくてようやく五分。
しかも残り一分を過ぎたぐらいから、戻りそうな気配を感じ始めて落ち着かないらしい。
動くと半人化の時間はちょっと減る。
つまり実際安定して半人化していられるのは三分程度といったところだ。
リッカは拗ねたように床に転がって、アウアウ言いながら体をくねらせている。
しかも半人化ができるのは一日一回。
一度半人化すると、次に半人化するまで一日待たねばならないのだ。
一日一回数分程度では、とてもじゃないが半人化を能力として期待することはできない。
半人化した上での能力チェックもあまり進んでいなかった。
ともかく、半人化の時間は伸びたのでパワーアップしたのだろうと前向きに考えておくことにした。
「ただ俺の方は変化ないか……」
キズクは右手からグレイプニルを出す。
最大二本のグレイプニルを出すことができる。
ただこれもサイクロプスのゲートの時に強化された力である。
「そういえば長さはまだ見てなかったな」
グレイプニルの見た目に変化はない。
太さも同じだし、キズクが引っ張ったりしても変わったような感触はない。
「うーん……分かんないな」
「ご、ご主人様ぁ!?」
キズクは床を転がっていたリッカをグレイプニルでぐるぐる巻きにした。
「実感的に長くなった……とも感じられないな」
そもそもグレイプニルの長さを測ったこともない。
結構な距離伸ばせるなぐらいの緩い認識だった。
目一杯伸ばしてリッカのことをぐるぐる巻きにしてみたけれど、特別長くなったということもなかった。
「ホホホ……良い気味じゃ」
ノアがぐるぐる巻きにされたリッカの上に乗って小躍りする。
「怒りますよ!」
「ホホホ! その状態で何ができおる?」
リッカは牙を剥き出し、ノアは小馬鹿にしたように笑う。
仲がいいのか悪いのか、分からないなとキズクは笑ってしまう。
「ともかく……」
クレイゴーレムのゲートで確かに光の玉を得たものの、キズクにもリッカにも分かるような変化はなかった。
「はんでひたっけ?」
「ぬ、ぬおーっ! た、食べる気なのか!」
キズクがリッカのグレイプニルを解除すると、リッカはノアを咥える。
ノアは足と翼で突っ張って口が閉じられることに抵抗していた。
側から見ればノアが絶体絶命のピンチなのだけど、本気でノアのことを食べたりしないことはわかっている。
「パクッ!」
「みょっ……」
短い悲鳴と共にリッカが口を閉じた。
「リ、リッカ……?」
「ペイッ」
「この粗暴な犬公めぇえええ〜」
一瞬心配したけれど、リッカはちゃんとノアのことを吐き出す。
ヨダレでデロデロになったノアはペチョリと床にへたり込んでいる。
「僕の自慢の羽毛が……」
「私を馬鹿にするからです」
「僕が力を取り戻したら覚えておけよ!」
濡れて一回り小さくなったノアは怒りの表情を浮かべている。
ふらふらと飛び上がるとテーブルの上のティッシュをとって体を拭き始める。
「んもー……べたべたする……」
「ノアも変にからかうからだよ」
リッカがノアに対して謎の対抗心を燃やしていることは最初からである。
しかしノアも興味ないという顔をしながらも、実はリッカに対して対抗心を持っている。
それでいながらも普段は別に仲が悪いわけでもない。
不思議なものである。
「まあでも半人化が伸びたということはほんの少しでもパワーアップしているってことだな」
他のも能力は分からないが、リッカの半人化の時間は伸びた。
少なくともその点においてはリッカの力が伸びているといっていい。
「次は大きくなってみようか」
リッカのサイズはある程度自在に変化することができる。
ノーマルなサイズは四足で立っていてキズクの腰ぐらいの高さ、大型の虎ぐらいのサイズ感がある。
最小サイズでは大型犬ぐらいで最大サイズになるとキズクの背丈よりも少し小さいぐらいになることができる。
北形家に来る前の家では、狭かったので最小サイズで常に過ごしていた。
でも北形家は大きい。
リッカが通常サイズで過ごしても邪魔になることはない。
「キーズクくーん! 訓練しーましょ!」
光の玉に触れた時に見たリッカのようなモンスターはとても大きくて強そうだった。
今でも強そうだけど、いつかあんな大きくなるんだろうかと考えていたら部屋にオオイシがやってきた。
今日はレイカが仕事でいないために、オオイシの訓練の日となっていたのだ。




