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伝説級モンスターを育てて世界の滅亡を防ぎます〜モンスターが人型になれるなんて聞いてないんですけど!?  作者: 犬型大


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キズクの進路2

「その悔しさや、よし」


 ムサシは目を細めて笑うとキズクの頭をくしゃくしゃに撫でる。


「尊敬、憧れ、あるいは悔しさでもいい。負けたことに何も感じなくなれば終わりだ。何かを思い、次に繋げろ」


 睨まれたとしてもムサシは気にしない。

 キズクが悔しさを覚えたことは良いことなのだし、これまで関わりが薄かったキズクに何かの感情を向けられることも少し嬉しかったりする。


「それにお前の歳であれだけ動ければ十分だ」


「でも防げませんでした」


「防ぎはした。ただ防ぎ切れなかっただけだ」


 木刀を動かして防御の姿勢を取ることそのもののには成功している。


「お前と同じ歳で防ごうと動くことができるものがどれだけいると思う? いないとは言わないが、ほとんどの者は動こうとすら思うこともできない」


「……防げた人はいるのですか?」


「……一人だけな」


 ムサシは目を閉じて何かを思い出すようにしながら答えた。

 あれを防げた者がいるのかと驚きとまたしても悔しさを感じてしまう。


 そして悔しさを覚えることに、また驚きを覚えてしまう。

 自分の中に芽生えた熱さを本気で自覚した気がする。


「そう落ち込むことはない。あいつは特別だったのだ。防御できたのはお前を含めて三人だ。ちなみにレイカは防御せずに額を自ら差し出して大変なことになった」


「父さん!」


「はははっ!」


 レイカが珍しく焦ったような顔をする。

 かつてレイカも同じようなことをした。


 その時のレイカも魔力に圧倒されて動けなかったのだが、気合いでどうにか少しだけ動いた。

 ただし木刀で防御するのではなく、反骨心を見せて体を前に出して自ら木刀に当たりに行ったのである。


 まさかそんなことをすると思わず、額が切れて大騒ぎになった。


「怪我が残らずよかったよ」


「コホン、キズクの前でやめてください」


 レイカは恥ずかしそうに咳払いする。

 珍しく父と娘の会話といった感じである。


「キズク、強くなりたいか?」


 笑みを消し、真面目な顔をしてムサシはキズクの目を見つめる。


「強く……なりたいです」


 回帰前よりも努力している。

 きっと少しは強くなっているのだとキズクも思っている。


 しかし強くなるほどに、より強さというものが遠くに感じられてしまう。

 単純に強いと思っていた人たちにもそれぞれの強さがあり、強さにも差があることがよく分かってきた。


 サイクロプスのゲートの時には、イザヤに対してまともに戦うこともできずに敗北した。

 これから先に待ち受ける戦いを考えると、もっともっと強くならねばならない。


「そうか、そうか」


 キズクの答えにムサシは満足そうに頷いた。


「ならばキズク、アカデミーへ行け」


「へっ?」


 ムサシは懐から封筒を取り出した。


「狭い世界で生きては視野が狭くなる。広い世界を知ることが強くなるためにも必要だ。そして近い歳の子と切磋琢磨することもまた大きな刺激になるだろう。アカデミーは上手く利用すれば強くなるのにふさわしい場となる」


「これはまさか……」


「アカデミーの入学届だ。まだ募集は受け付けている」


 アカデミーとは覚醒者を育成するための教育機関である。

 日本でいう高校の代わりにアカデミーに通うことができるのだ。


 もちろん高校としての機能も持っていて、アカデミーを卒業すれば高校卒業と同じである。

 高校に通いながら覚醒者としての教育も受けられる感じだ。


 今では覚醒者の多くがアカデミーに通う。

 キズクは回帰前アカデミーに通ったことはなかった。


「よく考えてみるといい。別の道に行きたいというのなら……」


「……行きます」


 キズクは一度レイカのことを見た。

 その視線の意味を分かっていたかのようにレイカは頷いた。


 行きたいのなら応援する。

 レイカの頷きの意味もキズクは分かった。


 だから考える時間なんて必要なかった。

 キズクは封筒を受け取ると、ムサシの目を見る。


「その判断の早さもいいな」


 短い手合わせだった。

 しかしその中でキズクの男としての成長をレイカは見た。


 嬉しさとほんの少し寂しさを感じずにはいられない。


「アカデミーで一位になりなさい。もし達成することができたなら……何かご褒美をあげよう」


「……頑張ります」


「アカデミーに入るなら恥ずかしくないようにもっと強くならなきゃね。今から鍛錬するわよ」


「えっ?」


「アカデミーの入学までもっと厳しくするから」


「あっ、じゃあ……やめようかな?」


「もう遅いわ」


 レイカはニコリと笑う。

 アカデミーに入る前に死んじゃうかもしれない。


 けれどもぼんやりとしていた進路が急に定まった。


「アカデミーか……」


 全く違った人生を歩み始めている。

 このことが未来にどんな影響を与えるのか、キズクには分からない。


「母さん、やろうか」


「あら? 急にやる気になったわね」


 この人生は駆け抜けていくのだ。

 立ち止まることもするかもしれない。


 時には苦しくなることもあるかもしれない。

 でも諦めない。


 最後まで前に進んで、自分を変え、世界の結末を変えて見せるのだ。


「うん、少しでも頑張りたいんだ」


 もうだいぶ空気は和らいだ。

 リッカとノアがキズクのそばに寄ってくる。


 リッカは鼻先をうまく使ってキズクの手を頭に乗せ、ノアはキズクの額が大丈夫か確認している。


「生意気に大きくなったわね」


 レイカは穏やかに笑う。


「もっと大きくなるよ」


「楽しみにしてるわ」


 レイカの笑顔にキズクも笑顔を浮かべる。

 きっとキズクは強くなる。


 目を細めて様子を見ていたムサシはそう思ったのだった。

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