リッカの力11
「ここが役に立つ時が来る。サイゲンには必要ないかもしれないが、サイゲンの子……あるいは孫……もしかしたらその下の孫の子には必要になるかもしれない」
二人が立っているのは、キズクが攻略したクレイゴーレムのゲートがある洞窟の中だった。
クレイゴーレムのゲートはすでに黒い箱状になっていて封印が施されている。
「封印するたびに私の力を使うのですよ?」
「それについては申し訳ないと思っている」
男性は笑顔を浮かべる。
笑うと目元にシワがよって、優しそうに見える笑顔だった。
「人手が足りん。どこもモンスターの対処に追われている。手が回らないところは封印しておくしかないのだ。それにお前さんだってどうせ待つことになるのだからいいだろう」
「本当の主に出会えた時に力がないなんて恰好がつかないじゃないですか」
「強すぎると契約にも苦労するものだ。弱まっているぐらいの方がいいだろう」
「本当に私の力を受け入れてくれる人が現れるのでしょうか?」
「現れるさ。私もサイゲンも君にはふさわしくなかったが……きっと現れる。もういくつか封印したら君には待っていてもらうことにしよう」
「シゲンはモンスター使いが荒いですね」
リッカのようなモンスターに盛大にため息をつく。
「これも未来のためだ」
目があった。
そうキズクはふと思った。
キズクとしては、リッカのようなモンスターと男性のすぐ後ろにいる。
ただ二人はキズクのことは見えていないかのように会話をしていた。
最後に男性が振り返った時にキズクは目があったような気がしたのだ。
「行こうか」
ただ目があったのは一瞬で、男性はゆっくりと歩き出した。
ぶつかる、と思ったが、キズクは男性をすり抜けた。
リッカのようなモンスターも男性の後を追って歩いていく。
追いかけようとした瞬間、体が動かないことに気づいた。
そして明かりを持った男性が離れていって、キズクの意識は闇に飲まれていった。
ーーーーー
「キズク!」
「ご主人様!」
「えっ?」
気づくとまたキズクはゲートの中にいた。
「あれ?」
「どうかしたのか? 急にぼんやりとして」
今見ていたものはなんだったのか。
わけがわからなくてキズクは周りを見回す。
さっきまで確かに封印されたゲートの前にいた。
それなのにまた周りは赤茶けたゲートの中で、リッカとノアが心配そうにキズクを覗き込んでいる。
目の前には光の玉が浮いたままになっている。
「……なんでもない」
言葉にできないような不思議なことが起きた。
ゲートを封印した時の記憶なことはなんとなく分かった。
なぜ起きて、何が起きたのか説明もできなくて、キズクは曖昧に笑って首を振る。
「あ……」
光の玉がふわりと動いた。
「おろ?」
光の玉がリッカの額に吸い込まれていく。
「あの時と同じだな」
リッカの体がうっすらと光を放ち、少し遅れてキズクの体も同じく光る。
サイクロプスの時と同じであるとキズクは思った。
「どうだ? なんか変わったか?」
サイクロプスの時はリッカが半人化できるようになったり話せるようになったりキズクのグレイプニルが二本になったりした。
ちょっと期待してリッカのことを見つめる。
「……分かりません!」
キリッとした顔をしてリッカは答える。
体は光ったけど変化的なものは感じていない。
「そっか……じゃあまた後で確認しよっか」
ボスは倒した。
ゲートはボスを倒されると消滅してしまう。
ボスがいなくなったからとすぐゲートが消滅するわけではないが、ずっといられるほど長くも持たない。
余裕があるうち脱出するのがいい。
「行こうか。早く帰って布団で寝よう」
なんにしても後で確かめればいい。
今は帰ってちゃんとした布団で寝たい。
キズクとリッカとノアはのんびりと歩き出す。
「結構僕も頑張ったと思うんだけど〜」
「ああ、助かったよ」
「はっ! 私も頑張ったよ!」
「うん、リッカもな」
キズクは歩きながらリッカとノアを撫でる。
歩きにくいけどそれもいい。
「あれは……リッカだったのかな」
リッカという名前はキズクがつけたものだ。
だから不思議な光景の中で、リッカのようなモンスターをリッカと呼ぶことはないのは当然のことである。
「サイゲンは爺さんの名前と同じだ……じゃあシゲンは……」
少し調べてみなきゃな。
そうキズクは思ったのだった。




