リッカの力10
「次は……足だ!」
キズクは左手から二本のグレイプニルを伸ばす。
ボスクレイゴーレムの両足にグレイプニルを巻き付けると一気に切断する。
「のわわっ!」
ボスクレイゴーレムは足を斬られてゆっくりと倒れる。
ノアが下敷きになりかけたけれど、素早く飛んで逃げる。
「足も違う……面倒だな」
倒れたボスクレイゴーレムは、足を拾うと切断面にくっつける。
体の方が動いているということは足にコアはない。
つまり体のどこかにコアがあるということである。
全体的な中で一番大きな部分が体なのだから、体にある可能性が一番大きい。
だから体にコアがなんら意外なことはない。
けれど体にコアがあるのが一番面倒だ。
胸にあるのか、腹にあるのか、背中にあるのか、尻にあるのか。
表面に近いのか、体の中にあるのか。
体とひとくくりにいっても体の中のどこにあるのかが大きな問題である。
「まあでもやることは変わらない」
足を戻してボスクレイゴーレムは立ち上がる。
体の中にあると分かってもやるべきことは変わりない。
「ほいっ!」
キズクはグレイプニルをボスクレイゴーレムの胴体に巻き付ける。
柔らかく、ボスクレイゴーレムが気にならない程度に優しく巻き付ける。
そしてそのままグレイプニルの先端を伸ばす。
「ノア!」
「ほれほれ!」
ノアがボスクレイゴーレムの近くを飛び回る。
コバエでも捕まえるようにボスクレイゴーレムは手を振るが、小さく素早いノアについていけていない。
「リッカ!」
「ふぁい! くふぁえまひた!」
リッカは伸ばしたグレイプニルの咥える。
「いくぞ! 引っ張れ!」
キズクとリッカはタイミングを合わせてグレイプニルを引っ張る。
引っ張られたグレイプニルが、ギュッと締まってボスクレイゴーレムの体にめり込む。
「よい……しょっと!」
キズクは体ごと下がるようにしてグレイプニルを引き、ボスクレイゴーレムの胴体を真っ二つに切断した。
「再生は……上半身!」
上半身側の切り口がうごめくのが見えた。
コアは上半身側にある。
キズクはツルハシを握りしめて、ボスクレイゴーレムに向かって走り出す。
狙うは再生が始まっている上半身。
「帝形剣法……一式!」
キズクは体に魔力を巡らせ、ツルハシにも魔力を込める。
剣ではないが、ツルハシでも剣法は再現できる。
「はあっ!」
素早くツルハシが振られて、ボスクレイゴーレムの上半身が切り裂かれていく。
「ご主人様の邪魔はさせない!」
グッと振り上げられたボスクレイゴーレムの腕にリッカが飛びかかる。
爪に魔力を込めて振りかぶり、ボスクレイゴーレムの腕を叩き壊した。
「むっ、見つけたぞ!」
とにかく適当にボスクレイゴーレムの上半身を切り裂いた。
空から様子を見ていたノアがチラリとコアが見える泥の塊を見つける。
「ふぬぐわぁー!」
ノアは急降下してコアを足で掴む。
ミニミニサイズのノアからするとボスクレイゴーレムのコアはデカい。
しかし気合を入れてコアを掴んで飛び上がる。
流石にコアだけで泥の体は再生できない。
「ナイスだ!」
「い、いくぞぉ!」
ノアがキズクに向かってコアを落とす。
「これで……終わりだ!」
落ちてくるコアをキズクはツルハシの先端で叩き割る。
鈍い音がしてコアが割れ、ほんのわずかにコアの方に向かい始めていた泥が動き止める。
「よっしゃ!」
せっかく着替えたのにまた泥で汚れちゃったな。
そんなことを思いながらもキズクはボスを倒したことを喜んで腕を振り上げてガッツポーズした。
「おわり……だ。なんだ?」
割れたコアの中から光の塊が飛び出してきた。
一瞬身構えたけれど、光の塊から怪しい気配は感じない。
むしろどこか温かみすら感じる不思議な感じがある。
「これは……」
ふとキズクはサイクロプスのゲートで見た光の玉のことを思い出した。
サイクロプスのゲートで見た光の玉と似たような感じを受けるのだ。
あの時は光の玉はリッカに吸い込まれていってしまった。
その後、リッカは半人化できるようになった。
「これも……何か関係が?」
封印という点では同じだとキズクは思った。
ここではゲートが封印されていて、サイクロプスのゲートではサイクロプスがグレイプニルによって封印されていた。
似ているといえば似ている。
「これはどうしたら……?」
光の玉はキズクの目の前に浮いたまま動かない。
前のようにリッカに吸い込まれないのかなと手を伸ばす。
光の玉に指先が触れた瞬間、キズクの意識は眩しいほどのヒカリに包まれていった。
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「このようなところも封印するのか?」
キズクはなんだか意識がぼんやりとしていた。
そこに存在しているのに存在していないかのような奇妙な感覚で、ただ立ち尽くして様子を見ていた。
見えているのは巨大なオオカミのようなモンスター。
リッカのような黒くて艶やかな毛皮を持っているけれど、リッカよりもはるかに大きい。
あれぐらいの大きさなら一体だけでもボスクレイゴーレムも制圧できそうだ。
「少し平和になって欲が出てきた」
リッカのようなモンスターの隣には六十代ぐらいの男性が立っている。
やや長めの髪を一つに束ねた男性は、リッカのようなモンスターを見上げて目を細めて笑う。




