リッカの力8
「気づいたらこんな感じに……」
クレイゴーレムの体は粘土質の泥で出来ていて、体につくと意外と落ちない。
何体か同時にクレイゴーレムを相手にしなきゃならない時もあったりして落ちない泥が重なっていた。
「無事でよかったよ」
オオイシも笑顔でキズクを出迎える。
「ゲートを攻略し終えた……というわけじゃなさそうだね」
オオイシはチラリとゲートを見る。
キズクたちが出てきてもゲートに変化は見られない。
ゲートを攻略して出てきたわけじゃなそうだと思った。
「あとはボスだけです」
キズクはサカモトから水のペットボトルを受け取ると頭からかぶる。
赤茶けた水が地面に流れていく。
「ボスだけ?」
「クレイゴーレムを倒して回って、あと残ってるのはボスだけです」
ずっとゲートの中でクレイゴーレムと戦った。
気づいたらクレイゴーレムは残っていなかった。
最後に残されていたのは他のものよりも一回りほど大きな土の塊。
明らかにサイズ感がデカいのでボスだろうとキズクは思っていた。
「流石に疲れたのでちょっと休憩を取ろうと思いまして」
他のクレイゴーレムはいくら探しても見つからなくなった。
ボスと戦うしかないのだけど、キズクとて調子に乗りはしたものの時間を忘れたわけじゃない。
すでに丸一日以上戦っていることを自覚すると急に疲れてきた。
ボス以外の残っているものはいないかと探しているうちに、体についた泥が固まってきてしまった。
疲労や睡眠不足もあって、やる気に比べて体のコンディションはあまり良くない。
だからボスを前にして一度撤退してきたのである。
「飯ありますか?」
とりあえず頭についた泥だけ落としてキズクはご飯を要求する。
疲れもあるけど、やはり一日何も食べていないので空腹だった。
「もちろんあるさ。外でバーベキューの用意をしてあるから……」
「早く食べましょう!」
「……ふふ、分かったよ」
キズクが外に出てみるといつの間にかバーベキューのセットが置いてあった。
網の上には何もないが、炭にはすでに火がついている。
「いつ出てきてもいいように準備はしてあったんだよ。今からお肉焼くから……君はもうちょっと身綺麗にした方がいいね。サカモトさん、お肉焼いてもらえますか?」
「ええ、もちろんです」
サカモトはバーベキューのコンロの横に置いてあるクーラーボックスからお肉を取り出す。
最初にサカモトがどこかに行ったのは、こうしたものを買いに行ったからだったのだ。
「君たちはこっちに」
キズクたちはオオイシに呼ばれてバーベキューから少し離れる。
「少し手荒いやり方だけどまずは綺麗にしようか」
オオイシは右手に魔力を集める。
目に見えない魔力はオオイシの右手の上に集まっていって、一瞬目に見えるように青く変化をして、水になっていく。
キズクたちみんなが入れてしまえるほどの水の玉が瞬く間に出来上がった。
ただ水を生み出すだけならさほど難しいことでもない。
しかし大きな水の玉を一瞬で生み出すオオイシの実力は決して弱いものではなさそうだ。
「ほら、目を閉じてね」
水の玉がふわりとキズクたちの上に移動する。
キズクが目を閉じるとオオイシはパチンと指を鳴らした。
「わっぷっ!」
水の玉が弾けてキズクたちの上に降り注ぐ。
体についた泥が落ちていく。
「これで泥は綺麗になったね」
「……そうですね」
全身びしょ濡れになったものの、泥はほとんど綺麗になった。
「細くなったな」
キズクがチラリとリッカとノアを見る。
水に濡れてリッカもノアもワンサイズ小さくなっている。
キズクは上の服を脱いで水を絞ると近くの木にかける。
そしてオオイシから受け取ったタオルでノアを拭く。
キズクは服を着替えればいいが、ノアの羽毛やリッカの毛は着替えるわけにはいかない。
まずは小さいノアから拭いてあげる。
「ブルブル〜」
「うわっ!」
そして次はリッカ。
リッカが体をブルブル震わせるとキズクはまた水をかぶる。
「リッカ〜?」
「ク、クゥーン?」
「そんな顔してもダメだ!」
キズクはリッカの頭にタオルをかぶせると粗めに水分を拭き取る。
「なんか視線感じるな……」
キズクは視線を感じていた。
何だか服を着ていない上半身を見られている気がする。
見ているのはリッカ。
タオルで拭いている隙間からチラチラ見えるとキズクの体をガン見している。
ついでにノアも。
タオルに包まれながらリッカを拭くキズクの体を見ていたのだった。
「にょほほ……細かった体も見栄えがするようになってきたのぅ」
ノアは目を細める。
キズクは同じ年代の子に比べると体格的に細かった。
しかし北形に来て食べるもの食べて、しっかりと鍛え始めたらあっという間に体格は良くなってきた。
まだ一般的な域は抜けていないにしても、細い体からは脱却している。
どんな体であってもリッカとノアはキズクのことが大好きだ。
キズクの体は良い体である。
でも良い体ならもっと良い。
存在しているだけで良い体が、もっと良くなったのだから見てしまうのも当然なのである。
その後キズクは服も着替えるのだけど、何だか視線が気になって木陰に隠れるようにして着替えたのであった。




