リッカの力6
「ノア! コアは見えないか?」
「探してみる!」
クレイゴーレムはキズクとリッカを狙わず、ノアに手を伸ばしている。
ノアもそう簡単には捕まるつもりはなく、飛び回ってクレイゴーレムの手を回避する。
飛びながらクレイゴーレムの体を観察する。
「背中にモコッとしたところがあるぞ!」
材質、大きさ、形状に至るまでゴーレムは様々であるが、どのゴーレムにも共通する弱点がある。
ゴーレムには心臓とも言えるコアがあって、コアを破壊されると倒されてしまう。
コアがどこにあるのかはゴーレムそれぞれの個体による。
体の中にあって見えないことあれば、体の表面に露出していることも時々ある。
コアが見えていればラッキー。
あるかなと少し期待していたら、ノアはゴーレムの背中に不自然に膨らんだところを見つけた。
「怪しそうだな」
コアそのものが露出しているわけじゃないが、コアが埋まっている可能性が高い。
「リッカ、あいつの気を引きつけてくれ!」
「うん!」
なんにしても戦わないことには分からない。
キズクもリッカと共にクレイゴーレムに向かう。
「ご主人様に褒められるためー!」
足の速いリッカが先行してクレイゴーレムに接近して足を振り下ろした。
リッカの攻撃でクレイゴーレムの足の土が軽くえぐれて飛んでいく。
「体は柔らかそうだな」
ゴーレムといえば高い防御力もイメージにある人は多い。
岩石の塊や金属の塊なら何もせずとも硬いのは当然の話である。
しかしクレイゴーレムは粘土質の土、言ってしまえば泥の塊である。
硬さにも限界がある。
むしろ破壊しやすい硬さぐらいであるかもしれない。
「ほいっ!」
リッカに気がついたクレイゴーレムが腕を振り下ろす。
軽くリッカは腕をかわしてクレイゴーレムの周りをぐるぐると回る。
ゴーレムは防御力も高いが、力も強くて攻撃力も侮れない。
赤茶けた地面はクレイゴーレムの攻撃でへこんでいて、攻撃を受けたら危なそうだなとキズクは思った。
ただ攻撃力、防御力が高い反面、ゴーレムは知能が低く、行動の速度は遅くてノロマである。
今のキズクの強さでも、油断しなければ攻撃を食らわないだろうぐらいの速度だ。
「あれか……グレイプニル!」
リッカに惑わされてクレイゴーレムがキズクに背を向ける。
キズクはグレイプニルを伸ばして、クレイゴーレムの首に巻き付ける。
そのままグレイプニルを縮めて、背中の出っ張りの近くに飛び乗った。
「はっ!」
左手から伸ばしたグレイプニルで体を支えながら、右手で持ったツルハシをクレイゴーレムの背中の出っ張りに振り下ろす。
ツルハシが突き刺さる瞬間の手ごたえは軽かった。
何もないのか、と思った瞬間何か硬いものにツルハシが当たった。
「コアだ! リッカ、それを壊してくれ!」
ツルハシが当たって、出っ張りの中から何かが飛び出してきた。
濁った茶色のでこぼことした水晶のような塊。
初めて見たが、それがクレイゴーレムのコアであることは間違いない。
ピクリと震えたクレイゴーレムはコアに手を伸ばしたけれど遅かった。
一歩早くリッカがクレイゴーレムのコアを咥えて走り去ってしまった。
「えーい!」
いまだに背中にいるキズクも無視して、クレイゴーレムらリッカを追いかけようとする。
ただいかんせん動きが遅い。
リッカの方を見て、腕を伸ばした時にはもうリッカはコアを噛み砕いていた。
「おっと……」
クレイゴーレムの体が不規則に揺れる。
首に巻きつけていたグレイプニルがクレイゴーレムの体に埋まって緩み、キズクはバランスを崩す。
このままじゃ危ないかもしれないと思ったキズクは、クレイゴーレムの背中を蹴って飛び上がる。
「崩れていくな」
ノアが、地面に降り立ったキズクの頭に降り立つ。
まだコアを追いかけようとしながらも、クレイゴーレムの体が崩れ落ちていく。
「ご主人様ぁー! やりましたぁー!」
コアをぺっと吐き出したリッカがキズクのところに駆け寄ってくる。
飛ぶのか、というほどに尻尾を振っている。
「褒めて褒めて褒めて!」
リッカがガバッとキズクに飛びかかる。
多少手加減してくれているけれども、リッカがキズクの肩に手をかけて立ち上がると余裕でキズクの背を越してしまう。
「うーむーあー!」
倒れないように耐えながら、リッカの顔を挟み込むようにしてムニムニと揉む。
テロリと舌を出してリッカは嬉しそうに尻尾を振っている。
「これがご主人様の寵愛……」
一通り顔を揉み込まれたリッカは満足そうな顔をしていた。
「僕も頑張ったぞ!」
「もちろん忘れてないよ」
キズクはノアの頭も撫でる。
そんなことをしている間に、クレイゴーレムは完全に崩れ落ちてただの土の塊になってしまっていた。
「クレイゴーレムのゲートか」
成長にはピッタリだなとキズクは思った。
ゴーレムは基本的に不人気モンスターである。
硬くて攻撃力があって倒しにくいのに得られるものが少ない。
他のモンスターなら素材として回収すればお金になることもあるのだが、ゴーレムではそれがない。
ついでにコアを狙うのが面倒とか、戦っていてつまらないとかいくつか理由もあってゴーレムは不人気なのである。
ただしゴーレムと戦うことにも利点がある。
ゴーレムはいわゆる魔導生物と言われる分類の特殊なモンスターだ。
魔力が生命であり、魔力に動いている。
そのために倒した時に放出される魔力も通常のモンスターよりも多い。
つまり成長したいならちょうどいいモンスターなのである。




