リッカの力2
「魔力が吸収されると一部が自分のものになって覚醒者としての力が強化される。だから覚醒者も戦うことが必要になってくる」
「それとモンスターとなんの関係が?」
覚醒者が強くなるための方法は基本的なことであり、知っている人がほとんどである。
今確認するまでもないことであり、モンスターが強くなることとの関係も分からない。
「実はモンスターも覚醒者と同じく魔力を吸収して強くなるんだ」
「あ、そうなんですか?」
「まあ、あんまり考えたことないと思うけどな」
基本的にモンスターは現れればすぐに倒されてしまう。
強くなっていく様子を確認するなんて危険なので行うこともない。
だがそれでも生き延びる個体や契約して長く生きることになった個体からモンスターも完成された存在ではなく、強くなることが判明してきた。
「今でいえば北欧……ノルウェーからフィンランドにかけての一部の地域を支配しているホワイトハウンドが、群れの中心のリーダー含めて最初と比べ物にならないほどに強くなっているね」
討伐されないままに放置されてしまったモンスターも世界には存在している。
その中には出現した当初よりも強くなっている個体もいるのだ。
どうして強くなったのか。
それは覚醒者と同じく魔力を吸収したからなのである。
「ただしモンスターは他のモンスターを積極的には倒さない。じゃあどうやって魔力を吸収しているんだろうね」
「……人間から」
「良い勘してる。モンスターは人から魔力を吸収するんだ。野生のモンスターなら……人を倒してね」
人がモンスターを倒して魔力を吸収するように、モンスターも人を倒して魔力を吸収する。
「だけど何も人を倒すことはないんだ。モンスターと契約するとモンスターの魔力を得られるけど、同時にモンスターは人の魔力を得る。決して関係は一方通行じゃない」
あまり多くの人は気にしないことだが契約したモンスターから人に魔力が与えられる一方で、人からもモンスターに魔力が渡されるのだ。
人からモンスターに渡される魔力は、モンスターから渡される魔力に比べて微弱なものである。
けれども面白い特徴がある。
「人から渡される魔力はそのまま吸収されるんだ。つまりモンスターは人と契約すると生きてるだけで、ほんの少しずつでも強くなるんだ」
「へぇ〜」
思わず感心してしまう。
そんなこと知らなかったと目から鱗が落ちるような気分であった。
「他にも倒したモンスターから出てくる魔力の吸収率は人に比べるとモンスターの方がはるかに悪いんだけど、人が魔力を吸収すると人からモンスターにも魔力が渡る。つまり一緒に戦えば戦うほどモンスターも強くなれるのさ」
「知りませんでした」
今日の内容は学びが多い。
一緒に戦う意味を改めて見出したような気分になる。
「まあ結局強くなりたいなら戦うしかないってことなんだけどね。そうしたところもあるからモンスターも人と契約するんじゃないかって言われてる。人と戦わず契約することで強くなれる。ある種の生存戦略の一つかもしれないね」
そこでモンスターが人と契約するのは強くなるためなのではないかと言われている。
契約者との親和性が高いほどに受け取れる魔力が強くなるので、親和性の高い相手を見つけると強くなれる可能性を感じて契約する、というのが今の学説の中でも有力だった。
「なるほど……」
キズクは改めてリッカとノアを見る。
ノアはリッカの頭の上でペショリと半分解けるように寝ている。
強くなりたくて。
もしかしたらそんな理由もあるのかもしれないけれど、リッカとノアの場合それが全てでもないような気がする。
「学説は変わるもんだから、そのうちもっと色々分かるかもしれないけどね」
タメになる話を聞きながらだと山を登っていることもあまり気にならなかった。
気づいたら山の頂上近くまで登ってきていた。
「んー……気持ちがいいね」
それほど高い山でもなかったが、周りの土地が低いので広く見渡せる。
うっすらと汗をかいているところに気持ちのいい風が駆け抜けていく。
「……ここで何をするんですか?」
ここまででモンスターでも出てくるのかなと思っていたけれど、何もなかった。
「まあまあ、少し休憩しようか。カルラコンジ」
オオイシはパチンと指を鳴らす。
すると急に影が落ちてきてキズクは上を見た。
翼を広げた大きな鳥がキズクたちの上空を旋回している。
「ぬおっ!?」
大きな鳥が降りてくる。
羽ばたきで風が巻き起こり、ノアが飛んでいきかけてリッカに掴まる。
「そういえば紹介するの初めてだったね。僕の魔獣であるカルラコンジだよ」
オオイシと同じほどの大きさがあるタカのようなモンスターが、オオイシの契約しているモンスターであった。
「うん、ありがとう」
カルラコンジはくちばしにリュックを持っていた。
オオイシはリュックを受け取ると、そのままくちばしを撫でる。
なかなか強そうなモンスターである。
北形家では魔獣であっても良い顔はされないので、姿を見せたことがなかった。




