生活の変化4
「……どれだけの力があるかは知らないが、君のことが好きなのは伝わるな」
リッカは体を傾けてキズクに頭をくっつけると尻尾を激しく振っている。
体はデカいのに仔犬みたいだとオオイシは思った。
「よーし……ほっ! ほっ! ほっ!」
舌を出してヘラリとしているリッカにオオイシはスッと手を伸ばした。
頭を撫でようとしたのだけど、リッカはオオイシの手を避ける。
一瞬の沈黙があって、オオイシは再び手を伸ばす。
リッカは避ける。
オオイシがリッカの頭を狙うも、リッカは巧みに避けていく。
「むむむ……誰にでも友好的……というわけじゃないみたいだね」
リッカがうなり始めたのでオオイシは手を引っ込める。
時として無条件で人に友好的なモンスターも存在する。
モンスターとの親和性が低いはずのキズクと契約するぐらいなら人に友好的なモンスターなのかもしれないと思った。
けれども他の人に敵対しないというだけで、リッカは決して友好的態度を他の人に取らない。
あくまでもキズクに対してだけなのである。
「……ノアの方も似たような感じ……」
リッカはあからさまに他人に冷たい。
対してノアの方は他人に興味がないという感じでツーンとしている。
ただノアにしてもキズク以外の人に友好的な態度とは言いがたい。
「それにリッカとノアは……そもそも……」
オオイシは腕を組んでぶつぶつと考え事をし始める。
悪い人ではないが、若干独特の雰囲気がある人だなとキズクは思った。
テイマーであるオオイシは客人ではあるものの、北形家の中であまり歓迎されているような感じはない。
オオイシはそんな雰囲気も全く気にしていないのである。
「キズク、休憩は終わりよ!」
「はぁーい」
十分の休憩でむしろ汗が噴き出してくるぐらいだったが、レイカに容赦はない。
「まずは素振りよ」
レイカがキズクに木刀を渡す。
ただし手足の重りはそのままだし、木刀にも重りがついている。
「私もやるから。正しい姿勢、正しい動作を意識するのよ」
レイカも横に並んでキズクと素振りを行う。
一回一回、地味な反復動作を確かめながら木刀を振り下ろす。
最初はいいのだが、剣を振っているとすぐに剣の軌道に乱れが出てくる。
「腕だけで振るからそうなるのよ。体全体で振りなさい。全力で振りながらも一回目と一万回目の素振りが全く同じになるようにするの」
レイカだって魔力を封じられていてかなりのブランクがあるはずだ。
それなのにレイカはブレることなく剣を振り下ろしている。
「うむ……頑張っているな」
走り込みは一緒に頑張れても素振りまでは一緒にできない。
ノアはモフモフのリッカをソファー代わりにしてキズクの鍛錬を見守る。
「むふふ……」
ノアはキズクのことを凝視している。
「流れる汗、張り付くシャツ、若いキズク……ヌフっ!」
ノアはニヤッと笑う。
「前のナヨっとしたのも別に良かったけど、引き締まってきて前に向かうキズクもいいのぅ」
回帰前のキズクは物静かな感じであった。
落ち着いた雰囲気もすごくいいものであったけれど、今のような活動的なキズクも悪くない。
むしろ体つきは回帰前よりも良くなってきている。
汗でシャツが張り付いて体のラインがよく見えていて、ノアは釘付けになっている。
「眼福眼福……イデっ!」
あまりにも見つめすぎだ。
目を細めたリッカが尻尾でノアのことをパシリと叩いたのであった。




